サザエさん―押し売り(9)

 

押し売りにも術がある。

 

朝日文庫版33巻〔89頁〕・昭和41年

『サザエさんの家にもし売りがきました。押し売りの人は、普通のオジサンで、ほとんど怖くありません。サザエさんが、玄関で応対しています。オジサンは、小さな目のトランクを持っています。それを、廊下に置くと、サザエさんに向かって、「まァかたく並んで聞いてください」と切り出しました。サザエさんは、平然として、「マア、だれがかたくなるもんですか」と返しています』

 

『オジサンは、続けて、手のひらを突き出して遮るように、「あたしゃ、間食しませんからお茶なんぞ、しんぱいしないで」と余計なことを言いだしました。サザエさんは、この余計な心配なぞしていませんから、「だれがお茶入れるといった?」と冷たく返しました』

 

『オジサンは、また、手のひらを突き出して「カネがなきゃ買わなくてもいいの、いいの」と言いだしました。サザエさんは、キッパリと、「しつれいな、だれが買わないといった?」とサイフを出しています』

 

『オジサンは、100円札を手にし、トランクを提げて、「というもあるんだ」と嬉しそうな顔をして家を出てきました』

 

押し売りも、買ってくれ買ってくれと、脅すだけが販売術ではないようです。

相手を良くみて、術を使います。

この押し売りのオジサンは、出てきたサザエさんを見て、直ぐ思ったんでしょう。

この奥さんは、強気な女性だ、この種の女性にはこの手が効く。

 

見破った通り、この女性は、こう言えば、ああいう、天の邪鬼な女でした。

俺のレシピ通り、切り出すと、案の定、「しつれいな、だれが買わないといった?」と啖呵を切っている。

こうなればしめたもの、直ぐに買ってくれた。

これは良い手だ。

怖い顔をして、脅す必要もない。