タヌキ(4-10)

もう、雪も降ることもなく、残雪が田畑の境目を白く縁どりして残っているだけである。

そして、障子から、初春の弱い陽の光が差し込む部屋で、お種は、縫いものに余念がない。時折、良兵衛がおこしてくれた火鉢に、手をかざしながら縫い物を続けている。

お婆さんも良兵衛も、部屋を覗き込む。

「今、手を休めることができない時ですから、氣づかいはしないでくださいませ」

と素っ気ない。

明るい日中には、殆ど部屋から出て来ない。

お婆さんは

「余り根を詰めたらいたらいけませんよ]

と諭す。

三日ほど続け

「やっとでき上がりました。久しぶりの着物の仕立てでしたから、手間取ってしまいました。」

お婆さんは、

「そうかい、仕上がりを見せておくれ」

とお種が縫いあげた着物を、あちこちと念入りに見ている。

「立派なものだ!さすがですね、昔とった杵柄とでも言うのですね」

と感心している。

 

翌日届けた、着物屋の番頭も同じだった。

「とてもお上手に仕上がっています。これならばお客様も喜んで頂けるでしょう。4~5日後にまたおいで下さい」

と手間賃を渡して呉れた。

お種は、嬉しかった。これで、私の力で、お世話になっている親子に、ご恩返しができる、と思った。

「お母様、仕立物の仕上がり、褒めていただきました。これだけの金子をいただきました。納めてください」

とそっくり渡す。

「ここに蓄えておきましょう」

箪笥の上の壷の中に入れる。

 

それから、お種は、良兵衛をお供に、着物屋に通う。受ける仕立ての数も、次第に多くなり、仕立て上がりも素晴らしいと評判になり、更に仕立ての数も増える。

断ることを嫌うお種は、更に仕事の数が増えていく。

お婆さんがある時言う。

「お種さん、あなたがこの家に来た時、身の上話をしてくれた。貴方が、呉服屋の娘の於駒さんで、戦の末、城下町のお店が焼き払われ、両親も失ったこと。お店には、縫い子さんが沢山いて、その人達の行くえも知れないと言っていました。その人達のいくらかでも探し出せないものだろうか?もう、これ以上仕事を増やしては、貴方の身が心配です。手伝ってくれる縫い子さんがいなければ、これ以上は無理です。」

お種は

「私を手伝ってくれる縫い子さんの目処は全くございません。だた、嘗ての縫い子さんにお会いすることがあれば、一緒にお仕事が出来るでしょう。でも、お会いできることなどできませんので、私が出来る範囲でお仕事をお受けすることに致します」

と明るく振舞う。

 

今日は、引き受けていた仕立物を届ける日だ。

牛車が引き出され、荷台の上には、桐箱を乗せるより早く、漬けものの桶が一つ乗せてある。

桐箱も摘み終えた、良兵衛が、牛の手綱を持って、ニコニコしながら、お種を待っている。

荷台の上の何時もの席にお種が座ると同時に、良兵衛が、

「今日は、漬けものを一樽、街に持って行く。漬物屋さんの店先を借りて、かかぁが漬けた美味しい沢庵を売れるかどうか試してみたい。今日は、日が暮れるまで街にいるつもりだ。お種さんも、俺と一緒にいてくれ」

と頭を下げた。

お種は、彼の無邪気な姿を、愛おしく思い、嬉しかった。

(続く)