タヌキ(4-8)

お種は、

「良兵衛さん、お母様に許していただきました。早速、明日、街の着物屋さんまで参りましょう」

それを聞いた良兵衛は

「かかぁ、お種さんの願いを聞いてくれて有難う」

と自分のことのように喜んでいる。

お種は、お婆さんが押し入れから取り出した和裁道具を確かめている。

「お母様、随分とお持ちですね、必要な道具は殆ど揃っています。」

 

翌日は、晴れ渡った暖かい日であった。

良兵衛は、朝早く目覚め、家の外で何やら忙しそうだ。

牛を荷車に取りつけている。

「お種さん、出かけるぞ、かかぁ行って来るぞ」

良兵衛は、お種に荷車の上に乗るよう勧めている。

お種は、断っているが、良兵衛は、かなり強引に乗るように言い張る。

荷車の上には筵と茣蓙で、お種が座れるような場所まで作っている。

お種は、やむなく、車の乗ると、気まり悪そうに、その場所に座った。

良兵衛は、まるで、やんちゃな子供のように、ニコニコと嬉しそうだ。

「お種さん、行くぞ!かかぁ行って来るぞ」

手綱を持ち、牛を引いた。

 

昨日の着物屋につくと、お種は、番頭さんに、着物の仕立てを引き受けることを伝え、仕立ての仕事の作法や進め方、約束事などを相談している。

番頭は、

「では、早速、お願いすることに致しましょう。手前どもで、お願いする仕立ての生地など、と和裁の道具も準備しておきますから、三日後に来てください」

と依頼した。

お種は

「良兵衛さん、私の用件は済みました。和裁の道具はお店でも揃えてくれるそうです。お母さんから頼まれたものを買って帰りましょう」

と、良兵衛の先に立ち、立ち並ぶ店で、醤油、塩、味噌、こしょう等を買い求める。

 

家の納屋には、お婆さんの得意な漬物の樽が並んでいる。

お婆さんの作る漬物は、お裾わけして貰っている近所の農家でも、美味しいと評判である。

褒められるとお婆さんは、漬物つくりに熱中する。

 

良兵衛は、お種が一緒に暮らすようになり、随分と変わった。以前、年老いた父母を頼りに無気力な毎日を過ごしていたが、本当に変わった。

時折、尋ねて来る次男も、父母にそれとなく言う。

「おとう、兄貴は、お種さんが来て、随分変わってしまつた。おらと変わらねえじゃないか」

お爺さんは

「うん、俺もそう思っている。なんだか知恵もついてきたし、なんでするし、出来るようになった。どうしてか判らないが、なんだか変だ」

と言っている。

次男は、妙なことを言いだした。

「おとう、二人に異存がなければ、お種さんを、兄貴のお嫁さんにしたらどうだ?」

それを聞いていたお婆さんは

「うんそうだなー、おらもそう思うんだが、お種さんがうんと言うだろうか、おらが見たところ、お種さんは、生まれも育ちも良いようだ。良兵衛の嫁には駄目だろう」

と悲しそうな表情をした。

(続く)