昔話 (金太郎-42)
林の中で、木刀で木の幹を相手に剣の術を鍛えていた熊王丸が、賊に襲われて、いく日が過ぎただろう。
金時山は、連なる山々の中の一つであり、それらの山々の間をたどるように、細い山道が連なり、それらの山道は、大きな街道に結びついている。
その山々の木々も、次第に紅葉して行く秋になっていた。
金時山から、それらの道を辿って行くと東の領国に入る。
嘗て、十数年前、この国では、政治を司る城主やその側近達の力が弱く、田畑を所有する庄屋の横暴に農民も困窮し、農民が庄屋に対して反旗を翻す村もあった。この様な状況不安定に乗じて盗賊も横行していた。
隣国が、このような状況にあった時、金時らは、この東の国に立ち入り、盗賊を退治したことがある。
その後、この国は、一応、安定していた。
しかし、再び、この国の政情は劣悪化している。
政治体制の弱さに、国内に再び、不穏な集団が生まれてきていた。
このような噂は、金時のもとにも漏れて来ていた。
金時の部下の天狗党の若者たちは、それぞれ、行商人を装い東の国に入った。ある者は飴売り、ある者は薬売り、また、ある者は馬の背に反物売り、更にある者は、雑穀を積んで荷馬車に積んで売リ歩いた。彼等は、隣の国の中に深く入り込んだ。
かなり月日も過ぎ、金時は、城内で天狗党の若者達と対面していた。
天狗赤丸は言う。
「殿、私は飴売りを装い、街や村の奥深く巡りました。飴が売れませぬ。子供たちが私の周りに群がるようなことはございませぬ。些少の金も持たされておらぬようです。街、村とも、領民は、皆、貧しい暮らしをしておりました。」
天狗青丸が続けて言う。
「殿、私は薬売りを装い、売り歩きました。私の持ち歩いた薬は殆どなくなりました。食料不足で栄養不良の病の者が多く、薬を求めようとする者が、声をかけてきます。ところが金子を持っておらず、私は、已む無く、その者達に薬を分け与えました。殿、申し訳ございません」
「そうであったか、良い、良い」
天狗緑丸が更に続ける。
「殿、私は反物・布地を売り歩きました。赤丸と青丸が申し上げた通り、街の民や村人は貧困して新しい反物など求めようとする者はおりませんでした。しかし、私が持参した反物は全て売れました。村人から搾取している庄屋等は、沢山の金子を持っているらしく、反物。布地を買ってくれました」
天狗紫丸は、締めくくるように言った。
「このような東の国の様子は、十数年前の状況と同じだと年老いた村人が言っていました。領主は、この状況を改善しようとしても、その力がなく、ますます状況は悪かしている様子です。この様な状況に乗じて、悪しき輩が集まり、領民たちや旅人を襲うために徒党を組んで、荒らしている様子です。私が持ちあるいた穀物は殆ど売れませぬ。盗賊の獲物となるばかりです。危のうございました」
天狗赤丸は、再度、継ぎ足した。
「このような様子です。盗賊達は、東の国だけでは、十分な獲物がなく、その勢力をこの地にも広げようとしているようでございます。この国の街道でも旅人が襲われている様子です。この様な盗賊を一刻も早く捕え、成敗することが急務です」
金時は、天狗党の面々の報告を聞いた後、
「よく判った、断じて許せぬ、このまま放置しておく訳にはいかぬ、熊王丸を攫おうとした奴らに何らかの企みがあるに違いない。直ぐに対処する。しかし、東の国に兵を出すことになると、弱国とは言え、迂闊に入り込むことは出来ぬ。この状況をこの国の殿に、報告し、許しを得ることにする」
(続く)