昔話 (金太郎-26)
関取は、
「殿、金時様と勝負の場を作っていただき有難うございました。益々、精進して必ず横綱となります。今後ともご支援ください」
殿は
「関取!身共のお礼だ。牛車に乗せた俵の米、持ち帰ってくれ」
関取は御礼を述べて、帰って行った。
数日すると、殿が、また、道場にやってきた。何ごとも起らず、平和で、暇らしい。
「今日は、弓を射に来た。金時、身共に付き合え」
殿は、衣を着替えると、ご自分の弓を手にして射場に現れた。
的の真ん中を確実に射ることが出来る。
殿は、戯れに
「我ながら出来は良いぞ、新しく作った的場の的を射てみるか」
と位置を変えると、遠い位置の的を狙って矢を放つ。
矢は届かず、的を射ることが出来ない。
弓と弦を一杯一杯に引いて矢を射ても。矢の勢いと矢の飛んでいく距離に限界がある。
的を射ることが出来ない、と言うより、的まで飛ばすことが出来ない。
負けず嫌いの殿は、何本も矢を射たが、弓は、一本も的を射ることが出来なかった。
殿は、怒ったよう
「金時を直ぐにここへ呼べ」
と言う。
呼ばれて出頭した金時に
「金時、そちは、あの遠い的を射ることが出来ると聞いた。身共に、あの的を本当に射ることが出来るか見せて見よ」
「ははっ!畏まりました」
金時は、衣を着替えて射場に現れる。
手にした弓は長い、道場に供えてある弓の中でも抜群に長く、殿が手にしている弓の1倍半はありそうな大きさである。
矢も長く大きい。
射場に立った金時は、左手に弓を持ち、右手に矢をもって弦につがえる。左手で弓をぐーっと押しだし、弦を右手でぐーっと引く、弓と弦で作られる円は、大きい。一杯に引かれた矢を放つと、矢は、勢いよく真直ぐに、遠くの的に向かって飛んでいって的の真ん中に当たった。
殿様は、驚いてしまった。
「ややっ!凄い、見事じゃ。恐れ入った。どれその弓を身共に貸して見よ」
と殿は、と受けると弓を引こうとするが、出来なかった。殿は、すごすごと帰られた。
この殿の領国は、大きな争い事はなく、長らく平和が続いた。
しかし、その平和も何時までも続くものではなかった。
世の中、必ず平和を脅かす、貪欲な者がいる。
この殿の領国の西隣にある領国は、この国より少し小さい。
その領国の殿さまは、領民をけしかけ、国を広くしようと、前々から策を練っていた。
その領国の殿は、金時の殿の領国が、平和ボケしているようだと睨んだ。
この際が、攻め込むには絶好の機会であると判断し、国中の兵士を1か所に集め戦の準備を始め、作戦も練り始める。
国の境の戦の拠点となるような所に、馬止めの柵を設けたり、草藪を刈ったり、見通しを良くするなど、決戦に備えた。
この領国の殿も、隣国の不穏な動きを察知し、戦に備えることとした。
殿は、重臣や金時達若侍を集め作戦会議を開いた。
国境に近い地くに構える家臣の城に、この領国の兵士達が終結し、戦に備える。
この頃の戦いは、殿が、扇のかなめに位置し、重臣達が殿を守るように続いて進んで行く。
兜を被り、頭を防御し、兵士は、よろいを着け、弓、槍、刀を持ち戦う。
槍を持つ兵士が先方となり、相手の兵士の中に突っ込んで行く。
その槍の争いが、兵士で混雑し、槍を突き、振りまわすことが難しくなると、刀を抜き振りまわして切る。
このように戦は、進むが、先頭に立っていた騎馬の殿や重臣の前方に、弓隊が並んで前進し、一斉に相手の隊に矢を射る。
戦の始まりは、この弓の射合いで始まるのである。
両方の部隊が対峙する。
この領国の殿の隊は、予め練っていた作戦を展開する。
先ず、作戦通り、先頭に立っていた騎馬隊の前に、弓隊が2重の列をなして出てきた。前の弓隊の列の中に、体の大きな騎馬侍が一人混じっている。
相手の部隊も、殿を先頭に重臣たちが馬上にあり、前の方にいる。
両方の部隊の間の距離は、まだまだ遠い。
この領国の殿の部隊は、弓隊の隊長が、兵士に矢を継がせると、撃てと射させた。
矢は、空中に円弧を描いてバラバラと飛んでいく。
ところが、矢は、まだまだ、相手の部隊に、未だかなり離れた距離にぱらぱらと落ちてゆく。
それを見ていた相手の弓隊や殿や重臣たちは、あざ笑うように一斉に笑い出した。
「ワッハッハ!バカ野郎共、矢をいても、矢は届きもしないぞ!」
相手の殿は、胸をワザとらしく叩いて、届くものかと言うしぐさをしている。
この時、この国の領国の弓隊の前列の真ん中にいた騎馬兵士が、背中に背負った巨大な弓を取ると、長く大きな矢をつがえ、弓を押し弦を引き大きな円を作り、相手の殿を目がけて、矢をビシッと射ると、矢は目にも止まらぬ速さで飛び、相手の殿の胸に見事命中した。その殿は、一溜まりもなく馬上から落下し、一命を落としてしまった。
相手の隊は、大騒動、主を失って大混乱、我先にと退散してしまった。
金時の殿は
「金時、またもや、見事じゃ」
と誉めそやした。
殿を失った西の領国は、この国の領国を再び攻めて来ることがなかった。
(続く)