昔話 (金太郎-13)
それから2~3年経ったある朝早く、数騎の騎馬武士達が銀太の家にドドドーツと駈けつけた。
「銀太の家は、ここであったか。銀太おるか!」
と騎馬武士達の大将が大声を張り上げた。
銀太の一家は、森へ出かけようと揃った時であった。
銀太は、何事ならんと、飛び出した。
大将は、銀太を目にすると
「銀太、殿がこの地に鹿狩りに参られた。明日、お前の家に参られると言うことだ。明日は森に出かけずに、家で殿を待つように、とのことだ」
金太も戸口に出て来ると、大将が、殿が鹿狩りをすると耳にすると、
血相を変えて
「それはならんぞ、鹿はおいらの友だ。」
と叫んだ。
大将は
「何を小癪なことをぬかす、殿に申し付けるぞ」
と言い放つと
「明日は、家を出ぬように、しかと申しつけたぞ」
と言い離すと駈けて行った。
その時、金太は、13歳になっていた。
翌日、午後、狩衣姿の武将が、家来達を引き連れて、銀太の家の前に現れた。
大将が
「銀太、殿の御成りだぞ」
と叫ぶ。
その家の戸口から、爺、婆、金太とその母とが揃って腰をかがめながら現れた。
武将は、それを見ると
「おう!みんな揃って無事であったか。金太郎、一段と大きく逞しくなったのう。お主が鹿を狩ってはならぬと言うので、猪を捕えてきたぞ。猪狩りは、鹿より難しかった。大きな奴であった。持参したから、お前らに呉れてやる。美味しく調理して食べよ。金太郎、お主が、鹿は友だと言うので猪を狩った。心やさしい童子だ、ますます気に入ったぞ、何としてでも、家来として貰い受けねばならぬ」
銀太は、うろたえて、
「むさくるしゅうところでは御座いますが、家の中にお入りください」
「いやいや、心配いらぬ、この庭先が良い」
と言うと、家来に命じて座椅子を持って来させた。
その座椅子にドカッと座った武将は
「あれから何年たったかな、金太郎、年は幾つになった」
と問うた。
銀太が、答えようとするのを遮るかのように、金太郎は大きな声で
「今年で13歳でございます」
「おお、13歳になったか?ところで銀太!先に我々が約束した金太郎をわしに呉れる件はいかに決心できたか、今日、教えてくれ」
銀太が、未だ決心がつきかねているような様子を見て、
「すでに、わが右手のように、親指に例えられる我には、他の4本の指のように、常に我に付き添い、仕える4人の頼れる家臣が既にいる。我々は拳の様に強く結ばれている。わが家系は盤石だ。しかし、わが家系は、この先も未来永劫に続かねばならぬ。そのためには、金太郎!そちのような屈強な若者が左手の拳の様に揃わねばならない。そのためには、屈強な若者でなければならない。しかし、熊を投げ飛ばすだけの力自慢だけであってはならぬ。槍、弓、刀の武術に優れた強い体と、高い知能がなければならない。そのためには、未だ若いそなたは我が家に参り、選りすぐった他の若者とともに競い学び、武将として育って行くのだ。そのために、未だ若い金太郎!今の内に、そちを、是が非でもわが家に引き取らねばならない。」
と力強く説得をした。
これだけの武将の説得に、銀太は心を動かされ、
「よく判りました、殿にそれほどまでに申していただければ、勿体のおございます。金太は、体も大きく、丈夫に育たました。これも、殿のお役に立てれば、私どもとしては、この上ない幸せにございます。」
銀太は、金太を振りかえると
「金太、殿の言われること、もうお前にもわかるであろう、私たちはお前を殿に差し上げることに決めた。良く文武に鍛錬して、殿に何時までも支えるのだぞ!」
「銀太、金太郎、わが望みを叶えてくれるか。かたじけない。金太郎! 父、母等の以後の事は、心配いたすな。そなた達の望み通りに、取り計らうので任せておけ」
と言うと
「そのうち、金太郎を迎えに寄こすので、暫く待っておれ」
と銀太達に言うと、庭先で家来に命じて、猪を解体させて、肉を金太の母に渡すと
「金太郎!森の獣を狩るのは、お主の本望ではなかったであろうが、肉も食べねばなるまい。母殿に調理してもらい、皆で美味しく食べよ、置いて行くぞ」
と家来を引き連れて立ち去りました。
(続く)