タヌキ(4-4)
翌朝、女が目を覚ますと、台所の方から、トントントンと言う音が聞こえてきます。お婆さんが、何やら刻んでいるようです。
お爺さんと長男も、既に起きていて、裏庭で、薪割りをし、束ねて積み上げる仕事をしています。
女が、布団をたたみ始めるとそれに気がついたお婆さんは
「目が覚めましたか。大変お疲れだったようで、ぐっすり眠れたようですね」
と声をかけました。
女は
「ご親切に甘えて、つい長いこと眠ってしまいました。申し訳ございません」
と深々と頭を下げています。
長男は、体力の衰えが大きい父親の言いつけには、特に逆らうことなく、木を斧で切り倒して、鋸で切るような力仕事や、山に登り山林を歩き回るようなことは嫌うことなく、父の手伝いをしました。
今朝も、冬の間に使うための薪割りを、斧を振り上げ、力強く片付けていました。
台所の土間でお婆さんは、女に
「そこに私の野良着を置いていたから着て下さい。貴方の着物は、そこの風呂場で洗濯したらどうでしょう」
女は、
「そうさせていただきます」
というと、お婆さんの野良着を着て、長旅で汚れていたらしい着物を持ち、風呂場に入って行きました。
お婆さんは
「あなたがよければ、名前を教えてください。名前がないと何かと不便だから」
と、女に名前を聞きました。
女は
「私は於駒と申します。この北の方にある御城の下街に住んでいました。両親は呉服屋を営んでおりました。縫い子も沢山いました。私も縫い子として手助けをしておりました。今度の戦で、街も家も焼き払われ、両親も失い、年端もいかない弟も行方が知れません。縫い子たちも散り散りになり、取り残された私一人では暮らしても行けず、街を離れることにし、旅に出ました。この村の傍まで来たところ、急に寒くなり、食べ物も手に入らず、疲れ果てて倒れていたところ、何か判りませんが、私を引き起こすものがあり、この村に行くようにというものに曳かれて、知らず、知らず、この家に辿り着くことが出来ました」
お婆さんは、
「於駒さんと仰るんですか。当面、行くあてがなければ、貧乏な百姓の家だけど、於駒さん一人増えても何とかやっていけるでしょう。これから寒さも募って来ますから、この家にいても宜しいですよ」
とやさしく語りかけてきました。
女は、お婆さんの優しさに涙を流し、
「ご親切にありがとうございます。御迷惑をお掛けするでしょうが、こんな私であっても宜しければ、この家において下さい」
とお願いしました。
裏庭で仕事を済ませたお爺さんが、長男と一緒に家に戻って来ました。
囲炉裏端で味噌汁作りを手伝っている女を目にすると
「や!おはようさん、よく眠れたかな」
と言い、
長男も
「お早う」
と挨拶しました。
その声は、明るく楽しげでした。
(続く)