タヌキ(4-3)
雪がちらほらと落ちて来る、ある昼下がり、みすぼらしい絣の着物を着て、笠を被り、旅姿の女が、田舎の細道を、少し積もった雪を踏みしめて歩いて行きます。
女は、寒さに耐えられないのか、空腹なのか、その歩みはおぼつかなく、とうとう道の傍らに座りこみ、そのうち横に倒れてしまいました。
それから、どれくらいの時が過ぎて行ったでしょうか、女が倒れ横たわっている奥の林の草藪がざわざわと揺れ動いています。
横たわっていた女は、暫くの後、閉じていた目を開くと、むっくりと上体を起こしました。辺りを見渡すと、ゆっくりと立ち上がり、暫く、きょろきょろとしていました。
寒そうに肩をすぼめると、着物についた雪を両手で振り払い、笠と旅籠を拾い上げると、笠を被り、旅籠を肩に背負い、とぼとぼと歩き始めました。
すでに、刈り入れも済んだ、田んぼに沿う細道を歩いて行きます。
その道の先に、数軒の藁葺の農家が見えてきました。
その農家の中に、老夫婦と三十路に近い男が住む家が見えます。
女は、その家を目指すように、近づいて行きました。
その家の戸口まで来ると、女は、開き戸をトントンと叩いています。
「ご免下さいませ、済みませんが休ませていただけませんか」
と呼びかけました。
囲炉裏に掛けた鉄鍋で、野菜を煮込んでいたお婆さんは、戸口から聞こえて来るか細い女の声に直ぐに気がつきました。お爺さんと長男も直ぐに気づき戸口の方を見ています。
「どなたでしょうか」
と言いながら、お婆さんが戸口を開きました。
そこには、疲れ切った様子の旅の女が立っていました。
女は
「ご免なさいませ、突然、お邪魔しまして」
お婆さんは、
「どうなさったのじゃ、今にも倒れそうな様子、さあさあ、中にお這入りなさい」
と言いながら、女の旅籠と笠を取ると、体を抱え込むように家の中に導きました。長男は、直ぐに寄って来てお婆さんから、女の体を受け取り、体を支えると囲炉裏の傍まで連れて行き、座らせました。
女は、抱え込んだ長男の腕の温かみに、冷えていた体も、忽ち暖かくなる思いでした。
「外は寒かっただろう、そこに座って温まりなさい」
と薄い座布団の上に座らせました。
お婆さんは、やかんの湯でお茶を淹れると、
「これを飲んで体を温めなさい」
とやさしく飲ませました。
女は、お婆さんのお茶を、ゆっくりと確かめるように飲み干すと、ホッとした様子で、生気が蘇ったのか頬も赤らんできました。
暫くすると、
「申し訳ありません。生き返ったような心地です。御礼申し上げます」
と頭を深々と下げました。
お婆さんは
「お腹もすいているようだね、丁度、今、夕飯を、炊いていたところだった。これをお食べなさい」
と鉄鍋に拵えていたお粥を、お椀に入れて勧めました。
女は、それを美味しそうにすすり、
「有難うございました。生き返った思いです」
と丁寧にお椀を返し、お婆さんが、更に、注してくれた、お茶を飲み干しました。
お婆さんは、女に
「御覧のように、貧しい家ですから、せんべい蒲団しかありませんが、着物も私の古着ですが、取り替えてゆっくりお休みなさい」
囲炉裏のそばに、自分の布団を敷いてやると、しきりに、寝るようにと勧めました。
女は、相当に疲れていた様子で、
「本当にありがとうございます、お言葉に甘えて、休ませていただきます」
と言うと、お婆さんの着物に着替え、布団に横たわり、直ぐに眠りについたようです。スヤスヤと安らかな寝息が聞こえてきました。
お爺さん、お婆さんと長男は、ホッとして様子でお互いに顔を見合わせています。
何時の間にか、外は、深々と更け、本格的な雪となって来ました。
(続く)