タヌキ(4-2)

寒いこの地方では、冬になると、山林も田畑も雪に閉ざされてしまいます。

村人は、食べ物が採りいれなくなる冬に備え、夏~秋の頃までに採りいれた野菜・根菜等を保存食として漬物にして貯えます。

お婆さんは、漬物を作るのが得意でした。

大根、蕪、人参、午旁等の根菜、なす、きゅうり等の野菜等を上手に漬けていました。

長男は、お婆さんの漬物作りには、良く手伝っていました。

漬物作りが得意なお婆さんの家には、漬物の入った沢山の樽や壺を並べた特別の部屋までありました。

お婆さんの漬物作りの手伝いは、例えば、大根漬けは、母と父が作った大根を、畑から川岸に運び、藁を束ねて作ったたわしで綺麗に洗い、組み上げられたやぐらの棒に、ぶらさげて、日干しにし、しんなりとなった干し大根に塩をまぶしながら米糠の入った樽に漬け込むのですが、長男は、この作業には、汗をかきながら懸命に手伝いました。

長男は、時折、お爺さんに変わって、薪拾いの手伝いもしていました。

秋のある日、裏山に薪拾いに出かけました。

山の奥深くまで登って行かなければ、沢山の枯れ枝を拾い集めることが出来ません。

長男は、枯れ枝を求めて、山の奥深く入り込んでしまいました。

枯葉が深々と重なり積もった所まで来ると、動物の悲しそうな泣き声が聞こえてきます。

長男は、なんだろうと近づいて行きました。日の光が、木々に遮られ、薄暗い木の陰に、タヌキが罠に足を挟まれ、痛みに耐えかねて泣き声を上げているようです。

長男は、直ぐ傍まで近づきました。タヌキも、人が近づいたことに気づき、挟まれた後足を罠から抜こうと懸命にもがいています。

長男は、優しい性格で、タヌキを生け捕りにしようとは思いません。

悲しそうに泣きさけぶタヌキを助けることにしました。

タヌキも、近づいて来る人間が危害を加えて来ないと感じたのか、おとなしくなり、縮こまってしまいました。

長男は、足を挟んでいる罠の枠の間に、持ってきた鎌の取っ手の部分を強引に差し込んで、捻り、大きく開くと、タヌキは脚を素早く抜くと、直ぐに走り去りました。

タヌキは、かなり離れたところまで行くと、立ち止まり振り返り長男の方をみました。

まるで、薄暗い木陰に光る目が有難うございました、とお礼を言っているようでした。

長男は、良かったね、気を付けるんだよと、思わず、小声で言ってしまいました。

それから、罠には、何事も起こらなかったと見えるように、枠を開き元に戻しました。

長男は、この出来事を、直ぐに忘れてしまいました。

漬物作りも終わり、冬支度も済み、朝、かなりの冷え込みを感じ始めると、いつの頃からか、白いものが、ちらほらちらほらと舞い降りてきました。

長男が、寒さに起き出し、雨戸を開けてみると、山林は、うっすらと白く覆われています。

田畑も、一面、白く覆われていました。

空気も冷たく、長男は、直ぐに雨戸を閉めると、また布団の中に潜り込みました。

囲炉裏の傍で、煮物を作っていたお婆ちゃんは、それを黙って見ていました。

(続く)