トイレの怪人(39)

河岸の土手の上の道には、人が行き来していますが、秋になると、日の暮れるのも早く、夕暮れにジョギングする人もめっきり少なくなってしまいました。

川辺を散策するアベックの数も、ちらほらと目に付くほどです。

亀に一体化した河童は、毎日、夕暮れになると岸辺に這い上がり、タヌキの現れるのを待ちかまえています。

タヌキを見つけたものの、逃げられてしまったあの夜から、もう随分、日が経ってしまいました。

今、河童の思いは、川亀の中から抜け出したい。

もう海に行かなくても、元の河童の姿で川の中で潜んで暮らした方が良い。

もう、海に出るのは諦め、一刻も早く川亀から抜け出したい。

だが、あの時、タヌキは、河童から川亀に変身したら元に戻れないぞ、と言っていた。

しかし、河童に戻れるならば、透明に変身する術は教えて貰っているのだ。

だから、とに角、川亀から抜け出したい。

元の河童の生活が出来ればよい。

それには、どうしても、あのタヌキに逢わねば!

それから数日後のある夜、岸辺の水際に、2対の4つの光が輝いているのが見えます。

ペチャペチャと言う物音も聞こえてきました。

何かの動物が、川の水を飲んでいるようです。

亀の中の河童は、直ぐに、タヌキだと気がつきました。

驚かして逃げられないように、小さな声で

「オイ!タヌキ」

と呼びかけました。

タヌキ達は、ハッとした様子でしたが、今日は、直ぐには逃げませんでした。

覗うような様子でこちらを見つめているのが、動きがとまった4つの光で判りました。

河童が一体化した亀は、タヌキが逃げ出さないうちと思い、続けて声をかけました。

「おい、おーい、タヌキ!久しぶりだ。随分長いこと待ったんだよ。お願いがあるんだ。聞いてくれよ。俺は、広々として海へ行きたくて、亀に変身して貰ったんだが、川亀では海に行けないことがやっとわかったよ。川亀は、ウミガメにはなれないんだ。川亀では、詰まらなくてどう仕様もない。それより、元の河童のママが自由だ。透明に変身する術は、お前に教えて貰ったから、海に比べれば狭い川だが、この川で河童になったり透明になったりして、気ままに暮らすよ。それにトイレの怪人も未だ元気に飛び回っているようだ。彼も、俺を海に連れて行くことは出来なかったが、これから先も一緒に楽しいことが出来そうだ。お願いだから、この川亀から河童の俺を出してくれ」

タヌキは、腹を抱えて大笑いし

「やっと判ったか。奇妙なお前が、澄んだ大海原を夢見て、出て行こうとしたのが間違いだったんだよ。それが判っただけでも偉い。判った、元の河童にもどしてやるよ」と言って走り去りました。

突然、走り去るタヌキに、川亀の中で唖然としていた河童は、くらくらと目まいがし、意識が飛んで行きました。

どれ位の時間が立ったのでしょうか、河童は。川亀から抜け出した姿で、真っ暗やみの中に横たわっているのに気付きました。

河童の体は、全体が空気に軽々と触れ、河童は大きく手足を伸ばすと、川を目がけて走りだし、川の中にザブーンと飛び込み、まるでカエルのように手足を動かして川の奥の方に泳いで行きました。