切り餅(6)
越後製菓は、佐藤食品工業の「切り餅」の商品が、自社の上記特許権を侵害していると、製造販売の差し止め請求と4億8500万円の損害賠償の請求をしている。
この争いは、東京地裁では、侵害しないと判決が出され、これを不服として控訴した知財高裁の判決は侵害すると中間判決がなされた。
先ず、東京地裁は、どのような理由で侵害すると判断したのだろうか?
特許権を侵害しているか否かは、例えば、商品の構成、目的や効果を、特許権の特許請求の範囲の記載と、詳細に対比して、判断するらしい。
特許権の権利範囲は、明細書に記載の「特許請求の範囲」に文言で記載されているため、その解釈が不明確になることがある。
その時は、文言の意味を、その特許権の出願時の明細書、特許権を得るまでの審査の過程や、不服審判時の特許庁との間のやり取りでの意見や補正などの主張、特許庁の主張などを参酌して、解釈されるとのことである。
侵害訴訟の判決の中で、これらは詳細に述べられている。
東京地裁の判決を参照してみた。
読後の印象は、原告:越後製菓の主張が、狡猾なようである。
越後製菓の餅は、原明細書を見ても、明らかに、餅の上面および底面には切れ込みを入れないで、側面にだけ切れ込みを入れた餅であるように記載されている。
審査の段階でも、「のみ」と、側面だけに切れ込みを入れることを、明確にしようとした補正がなされている。
佐藤食品工業の出願の「上面と底面に切れ込みがあり、側面にも切れ込みがある切り餅」が、審査の段階で、越後製菓の餅と同一発明と看做されなかったのも、越後製菓の原明細書の記載が「上面および底面でなく」側面に切り込みを入れる餅の発明であることを、明細書に、明らかに記載しているからであろう。
ところが、審査の時、奇妙な判断がなされたとようである。
越後製菓は、審査の段階で、審査官の示す拒絶に対して、側面「のみ」と特許請求の範囲に記載し発明を、他と区別するため特定しようとした。
ところが、審査官は、「のみ」と特定することは、まかりならぬとこれを拒んだ。
それは、明細書の説明に「のみ」である餅の説明が記載されていないという理由である。
そこで、「のみ」を取った、複雑な文言が並んだ特許請求の範囲を、特許査定にしてしまった。
これは、特許権者にとっては幸いな結果であると思う。
「のみ」がないことにより、権利範囲が広く解釈される可能性が出て来る。
もしも、「のみ」を入れて特許権が成立していれば、特権侵害の請求の申し立てもできなかったであろうし、裁判でも、侵害していないと判断されることは明らかだ。
裁判の判決を読んで見ても「のみ」を特許請求の範囲に入れなずにすんだことにより、越後製菓は、餅の側面のみならず、表面と底面に切り込みを入れる態様が含まれているような主張をし、また主張することが出来た。
例えば、通常の者が、その様な文法的解釈はしないと思うが、特許請求の範囲に記載された「方形の小片餅体である切餅のではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」中の「載置底面又は平坦上面ではなく」を「側面に掛る修飾句だ」と主張している。
載置底面又は平坦上面は、発明の本質ではなく、この文言は、なくても良いものと言いたいようである。
この文言をその様に解釈すると特許権の権利は良いが広く判断されることもあり得る。
しかし、原明細書の記載を見ると、この「底面又は平坦上面ではなく」の文言は、切り込みを入れる個所が「側面であり、底面又は平坦上面ではない」こと、更にハッキリ言えば、側面にのみ切れ込みを入れ、底面又は平坦上面には切れ込みを入れないことを言うものであると解される。
被告である佐藤食品工業は「被告製品には、側面とともに、上面および下面にも切り込みを入れているので、侵害ではない」との趣旨の反論をしているが、こちらの方に利があると思う。
この点だけを取り上げると、東京地裁の判決では、佐藤食品工業の主張を採用し、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に・・・・切り込みを設ける」とは、『載置底面又は平坦上面」には切り込み部は設けず「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部などを設ける』と解するのが相当であるとしている(上側表面部とは。鏡餅のような上側に丸みのある餅の場合の側面を示すために使った言葉のようだ)。
東京地裁では、その他種々の構成についても検討し、結果として、佐藤食品工業の切り餅は、越後製菓の餅の特許権を侵害するものではないと判決を下している。
しかし、この判決は、知的高裁の判決では、侵害するとなった。
何故だろうか?