トイレの怪人(38)

熱い夏も過ぎ、大雨を齎した台風のシーズンも終わったようだ。

間もなく秋だ。

川の水も、少し冷たくなったように感じるし、水の中に動き回った虫や魚たちも、めっきり少なくなったように感じる。

彼らの動きが鈍くなった。

水草も勢いよく生い茂る夏の日は、過ぎ去っていく。

亀に一体化した河童は、なんだか淋しく、心細くなっていく。

ウミガメになって、海を泳ぎ回ることが出来ないと諦めてしまった。

やるせなさを感じる。

このまま、この川で亀の姿で無意味に過ごすのか?

河童に戻って、活発に動き回った方が、生き甲斐があると、亀に一体化したことを後悔する。

「後悔は先に立たず」と言うが、川亀に一体化したのを取り消したい。

一体化して河口まで行ってはみたものの、海に近い川の環境が、川に住む川亀には、矢張り生きてはいけないようだ。

川亀の動作が、一体化している河童には、よく判った。
川を遡って、元いた場所の川上まで行く方が良さそうだ。
俺が、亀に何処そこへ行け、と指示しなければならないが、ハシボソカラスと最後に逢った所も、タヌキに、変身の術を教わった場所がどこだったかも判らくなった。
しかし、悩んでいてもしょうがない。
兎に角、川を川上まで昇って行ってタヌキに逢うことにしよう。
タヌキが出ていた場所はどこだったかな?
そこまで行ってみようと、川をそろりそろりと、ゆっくりと遡りました。
川を下って来た時は右手にあり、川を昇って行く今は、左手に、見覚えのある松林がある川辺に辿り着きました。
まだ、辺りは明るく、ベンチの有る岸辺と、人々が散歩したり、ジョギングしたりしているここら辺りは、確かにタヌキと初めて会ったところだ、と思いだしました。
草の生えている岸辺で、身をひそめ待って見張ることにしました。
川の中の草の生い茂る所では、鯉や鮒のような魚が泳ぎまわっています。
亀は、甲羅の中から首を伸ばし、藻や水草をほほ張り、お腹を満たしました。河童が一体化した亀は、岸辺に這い上がり草むらに潜り込むようにして身を隠し、寝ることにしました。
ウトウトしていると、「ぱさぱさ」と小さな音が聞こえてきます。
河童が一体化した亀は、甲羅からそっと首を伸ばし、辺りを見廻しました。
既に暗くなっていました。
小さな音の聞こえるほうを見やると。
四っの小さなホタルの光ような、2個づつ対をなした光が動いています。
亀に一体化している河童は、ハッキリとあの時のことを思い出しました。
そうだ、あれは、タヌキの目の輝く光りだ。
餌を探してうろついている様だ。
亀に一体化している河童は、この時だと思い、
「オオイ、タヌキ!俺だ俺だ、河童の俺だ」
と呼びかけました。
しかし、亀が声を出して呼びかける河童のことなど、すっかり忘れているタヌキは、驚いた様子で、直ぐに走り去りました。
河童はシマッタと思いましたが、未だ、タヌキがうろついていることが判り、一安心しました。
「良し、粘り強く、毎晩、ここら辺で待って必ず逢おう」と覚悟を決めました。