切り餅(5)

佐藤食品工業の「切り餅」の出願発明は、上記のように特許第3620045号として特許権が成立している。

越後製菓が侵害されていると訴えた「餅」の出願発明が、先願としてあったのに何故特許になったのか、と疑問である。

知的財産法では、出願された発明が特許を得るために必要な要件が、規定されている筈だ。

調べてみると、その要件は、出願された発明が、(1)公に知られていたり、用いられていないこと(新規性)、(2)公知・公用の発明に比べ、進んでいること(進歩性)、(3)出願した発明が、その時、未だ公開されていない他人の出願の明細書に記載されていないこと、などである。

佐藤食品工業の「切り餅」は、「その上面および底面ならびに側面」に切り込みが入れられている。

佐藤食品工業の「切り餅」が出願された時には、越後製菓の「餅」の出願は、未だ公開されていない。と言うことは、佐藤食品工業は、出願時には、越後製菓の「餅」の発明については知らない。

佐藤食品工業は、「切り餅」の出願を早期に審査して貰うように申請している。

出願発明が、特許になるか速く知りたがっている。出願日から10ケ月後の請求である。特許庁の審査着手も早い。申請日から2ケ月後には拒絶理由が佐藤食品工業に通達されている。

拒絶理由は、「出願前に同じ発明がある」と言うものである。

佐藤食品工業の出願を審査した審査官は、特許法第29条の2を適用して、佐藤食品工業の「切り餅」の発明は、その出願時未公開である越後製菓の「餅」の出願明細書に記載されているとは認定していない

確かに、越後製菓の餅は、平面の餅の側面に切り込みを入れることであり、明細書には「上面および底面に切り込みを入れること」は記載していない。

だから、「上面および底面ならびに側面に切り込みを入れること」が特徴である佐藤食品工業の「切り餅」は、越後製菓の「餅」の明細書には記載されていなと判断し、佐藤食品工業の「切り餅」の出願を特許法第29条の2では拒絶していないのである

結果として、佐藤食品工業の「切り餅」の特許出願は、拒絶理由に対する意見書と補正書を提出し、引例の発明との違いを明確にして、審査請求後5カ月と言う速さで特許査定となっている。

簡単に早く特許になっている。

特許になった「特許請求の範囲」は、出願当初の特許請求の範囲を特定されているが、狭くなっているだけで、実質的に変わりがない。

佐藤食品工業の発明は、越後製菓の発明とは独立して特許権を有しているのに、その特許を実施した商品が侵害しているか否かを巡り、地裁と知財高裁での判決に齟齬を生じているのは、どうしてだろうか?