『磯野家の茶の間です。帽子を被り、寒そうにオーバコートを着た、波平お父さんが[ただいま]と茶の間に入って来ました。茶の間には、卓袱台を囲んで向う側に、お母さん、フク田マスオさん、カツオ君、こちら側にはワカメちゃん、サザエさん、タラちゃんが座っていて、お父さんに向かって一斉に[おかえりなさい]と言っています』

『と、お茶の間が真っ暗になりました。「アッ!また停電」「これじゃ、お父さんのご飯の支度もできないわ」と声が聞こえてきます』

『まだ、停電で真っ暗です。「まあ、ゆっくりでいいよ わしは火鉢に当たっているから」と言うお父さんの声が聞こえます』

『パツと電灯1が点きました。明るくなった茶の間の中で、お父さんは、帽子は脱いでいますが、オーバーコートを着たまま、火鉢が直ぐ傍に置いてある、出来たてのご飯が入って温かいお櫃、の上に手をかざしていました。卓袱台の席について、電灯がついてホッとした皆はお父さんの様子を見て、大笑いです』


サザエさんの四駒漫画です。

この漫画では、停電、火鉢、お櫃が出てきました。

確かに、停電が、頻繁であった時代がありました。

≪現在、冬になっても停電の可能性がまだ残っているでしょう。

停電が現実にありうるかも知れません。≫

暖房器が火鉢です。

最近のように電力供給の施設も十分でない、電気が足りない時代ですから、エアコンも普及していません。

だから、暖は、炭を燃やす火鉢で取っていたものです。

この時代は、ご飯を炊くにも電気炊飯器等のような便利なものはなく、羽釜に入れたお米をかまどで炊き上げていました。

台所には必ず1戸以上のかまどがあり、かまどで薪を燃やして出る煙を逃がすエントツが、個個の家についていました。

煙突掃除と言う商売もありました。煙突掃除をする人、その掃除の光景は忘れられません。煤だらけで懸命に、沢山の煙突を掃除してまわる人達です。

お櫃は、炊きあがったご飯をいれる木製の桶のような器で、温かいご飯が冷めないように、羽釜から移します。

寒い地区では、稲藁を束にして円形状に巻き上げ、藁で上下の輪と輪を結び、お櫃がすっぽり入る深さまで編みあげて身の部分と、これと、やはり同じ方法で作った藁の蓋の部分が付いている保温容器がありました。

このようなお櫃は、中には、火鉢の大きさに近いものもあったでしょう。

磯野家は、7人家族ですから、お櫃も大きかったに違いありません。

この大きくて温かいお櫃が、お父さんを火鉢と間違えさせたようです。

電灯がついた明るい中で、お父さんは、蓋が外され、湯気の立つお櫃の周りに、手をかざして、暖を取っている自分の姿に唖然としています。

家族の皆は、それを見て大笑いの様です。

3個目までの暗闇の中からでは、電灯がついた四駒目で、お父さんが可笑しなことをしているとは思いもしなかったでしょう。