『夕暮れでしょうか、サザエさんの家の前で、浴衣を着て、タオルと石けん箱の入った洗面器を持った銭湯帰りの、サザエさんのお父さんが、恰幅の良い髭を生やした老紳士と言葉を交わしています。「大きな広告塔があるから直ぐわかります」と遠くを指さして教えています。老紳士は帽子を取って御礼を言っています』

『電灯で明るい部屋の食卓の前には、電気釜を持ってきて、夕食の準備をしているカツオ君がいます。部屋に入って来たお父さんは、カツオ君に家の前での出来事を話したのでしょう。すると、カツオ君が「あのネオン、節電のため消してるよ」と教えてくれました。お父さんは「あつそうか」と、しまったと言わんばかりに、1本しか髪が残っていない頭の天辺を押えています』

『家を飛び出した浴衣のお父さんは、先ほどの老紳士を追いかけながら、大きな声で「かどの不動産屋を目印にいらっしゃい」と叫んでいます。老紳士が帽子を取り、判りましたと言わんばかりに振り返りました』

『戻って来たお父さんに、今度は、門の所にいるサザエさんが「不動産屋さん倒産して店を閉めたわよ」と教えてくれました。それを聞いたお父さんは「うっかり道も教えられない」と愚痴りながら、老紳士を追いかけて行きました』

サザエさんの四駒漫画です。

1994年の作品です。時代は違っていますが、節電、倒産と似通った社会情勢の中にあったのでしょう。

何時の時代でも起こりえることでしょうが、広告塔を消して節電し、倒産も起きている厳しい時代が、今と重なってしまいました。

この頃、サザエさんの家にはお風呂がなかったのでしょうか?

お父さんが風流な人だったら、家にお風呂があっても、時折、この頃、まだまだ街の中に残っていた、近くの銭湯に通っていたのでしょう。

広い浴槽から、もうもうと立ち上る湯気、こもるように響く湯桶の音、蛇口から流れる水の音の重なり等、銭湯の風景は趣のあるものでした。

あのドリフターズでなくても思わず『いい湯だなー』と、言ってしまいたくなる気分になったものでした。

お父さんが、親切に教えてあげたことが、不安定な社会情勢に無駄なことにされようとしています。お父さんも愚痴の一つも飛び出してくるでしょう。

しかし、それでもお父さんは親切です。