第1話
『庭先で、その家の御主人であるチョビヒゲのパジャマ姿のオジサンとお巡りさんが向かい合って話をしています。傍らには犬小屋が有って、耳と背中に茶色の模様が付いた、たれ耳の犬が鎖に繋がれてお座りしています。縁側の雨戸が開かれ、庭と縁側の廊下に足跡が付いています。お巡りさんは「え!イヌがいたのに吠えなかったんですか?」と素っ頓狂な顔をして、ご主人に確認しています』
『次は、パジャマ姿だったオジサンは、普段着に着替え、同じ犬小屋の前で、今度は他所のおじいさんと話しています。犬は犬小屋の前で少しうなだれています。オジサンは、「イヌがいたのに吠えなかったんですよ」と言い訳をしています。おじいさんは、可哀想にと言わんばかりの顔をして聞いています』
『さらに、同じ庭先で、今度は奥さんと、他所のおばあちゃんが話をしています。奥さんは「イヌがいたのに吠えなかったんざんすの」と全く困ったもんだと言わんばかりの顔です。お婆ちゃんも、呆れたもんだと言わんばかりの顔をしています。犬小屋の前でイヌは、悲しそうな消え入りそうな顔をして深くうなだれています。もう座ってはいられません』
『場面は変わって、サザエさんの家の縁の下です。吠えなかった犬がしょげかえってうずくまっています。その犬をカツオ君とワカメちゃんが縁の下に顔を突っ込むようにして覗きこみ、ワカメちゃんが「どこの犬かしら、もう六日もいついているね」と、サザエさんはご飯の上にお魚を乗せたボールを持ってきながら「イヌにはイヌで、家出したいわけがあったんでしょう」と同情している様子です。イヌは、かわいそうに、縁の下で小さく固まっています。尻尾も振る元気もないようです』
第2話
『電気屋さんのオジサンが、中流らしき家に訪問し、その家のリビングに、奥さまの立会いの下、防犯ベルの取り付け工事をしています』
『奥様は「これで安心だわ」と言いながら電気屋さんを送り出しました』
『庭の犬小屋の前で奥様は愕然としています。犬小屋には首輪を抜け出して、イヌが見えません』
『交番の中で、イヌが、交番のお巡りさんの前にうなだれています。奥さまは「タロー」と呼びかけています。お巡りさんは「イヌの気分を損ねたようなことはなかったですか」と尋ねています』
サザエさんの四駒漫画に、犬を主人公にした沢山の作品があるようです。
作者の長谷川町子さんは、イヌを愛していたんですね。
上の2話は、イヌが悲しげな、かわいそうだとつい同情してしまうお話です。
イヌ達は、番犬としての自分の存在価値を見失い、あるいは、認めて貰えず、いずれも家出をしています。
第1話は、立派な犬小屋に、番犬として住みながら、泥棒が来た時、全く吠えなかった。
そのことを、飼い主たちが繰り返し攻めるように、まくし立てるので、イヌは、その家に身の置き場もなく、いじけて家出したようです。
しかし、イヌは、番犬として飼われていながら、そのことを全く意識することなく、泥棒に吠えなかった。
泥棒に、尻尾でも振っていたんでしょうか。
とすれば、これじゃ責められても仕方ありません。
この家を出ていくしかなかったのでしょう。
イヌも六日も居座れば、サザエさん兄弟も何かあったなと気が付いたようです。
その後どうしたんでしょうか?
探し犬のビラが電信柱に貼り付けられたでしょうか?
第2話は、さらに悲惨です。
番犬として飼われて居ながら、泥棒が来てもいないのに、番犬としての存在を飼い主に無視されてしまったのです。
防犯ベルを取りつけるなら、俺はいらないじゃないかと受け取りますよね。
これでは、この家にいても仕方ないと思ったのでしょう。
家出して、交番に駆け込んでしまいました。
交番にいるタローを見つけ、飼い主の奥さんは『ごめんねと』と謝ったと思います。
優しそうに描かれた奥さんですから。
とは言え、タローのいじけぶりには、何となくホロリとします。