もう、大分夜も更けました。
まだ、川端には、アベックが来ています。
透明な河童は、アベック達を何とはなく見ているうちに、次第に眠くなってしまいました。
ウトウトとしてくる、眠い。
「アイ アム スリーピィ」。
と言うと、ついに眠ってしまいました。
気がついた時は、まだ、真っ暗な夜明け前です。
河童は、
≪そうだ、確認をせねばならない。≫
と起き出すと、暗い中に、ポッポッと光が映えている川面に目がけて走って行きます。
バチャバチャと水しぶきをあげて川の中に入り込みました。
川面を見ると、何だ、光る皿が映っている。
体は、見えません、透明です。
しかし、皿が、光っています。
駄目だ、完全に透明に変身したとは言えない。
これでは、タヌキ達に2番目の術を教えて貰えません。
河童は、変身の時、自分はどうしたか、振り返って見ました。
≪確か、変身の際、頭の皿を2回叩いた。叩いた回数を前より1回増やした。そのためか、皿が光るようになるまでの時間が長くなっている。沢山叩くほど、完全に変身できる時間が長くなるじゃないか≫
と思いました。
河童は、この思いを確認しなければならない。
「変身、戻れー」
と言って河童の姿を現しました。
それから、変身の術のやり直しです。
『トウメイ変身』『ドロン』の順番で呪文を唱え、『ドロン』と言う時、頭の上の皿をポイ、ポイ、ポイ、ポイと4回叩きました。
体を見ると、透明になって見えません。
川面には、光る皿も映っていません。
皿まで消えているのを確認しました。
透明に変身したまま、土管に入り込み、夜が明けるまで眠ることにしました。
目が覚めると、土管の外は、もう明るくなっています。
体を見まわしましたが、消えたままでした。
急いで、川の中に入って行きました。
川面を、恐る恐る見ましたが、皿も見えません。
これで、変身の際に、皿を叩く回数が多くなれば多くなるほど、透明に変身できる時間が長くなることに気がつきました。
長い時間、透明に変身出来ていることを確認した河童は、透明のまま、日中を過ごすことにしました。
太陽が輝く明るい川辺の風景は、人影を避けながら夜中に見ていた風景とは、まるで違います。
河岸の道には、人間が行き来し、子供たちは走り、遊び回り、また、ジョギングする人達も沢山います。
この道は車も行き来できそうで、時々通り過ぎて行きます。
透明になって、人間に気づかれず、周りの風景を思いっきり、ゆっくりと眺めるのも結構楽しいものでした。
この日は、河童は、姿を人に見られる心配も、恐れもなく、のんびりと過ごすことが出来ました。
夜になり、川の土手で、透明のままのんびりしていると、タヌキ達がやって来ました。
光る二組の目が、暗闇の中にチョロチョロと忙しそうに動き、何かを探しているようです。
「おーい、ここだよ、直ぐ傍にいるよ」
と河童は声をかけました。
「何だ、ここにいたのか。判らなかったよ」
とタヌキ達は、透明に変身している河童の方に声をかけます。
河童は、
「透明に変身の術が判ったよ。変身の際に頭の上の皿を叩けば叩くほど長く透明に変身出来るよ。」
これを聞いたタヌキ達は、
「ようし、それでは後一つの術を教えるよ。君がなりたいものはなんだ」
と尋ねてきました。
河童は、川上に住んでいた頃から、川下から運ばれてくる潮の匂いに、海まで行ってみたいと思っていました。
しかし、川上から下って、潮の匂いが強い、この付近の川では、息苦しさを感じたり、塩辛い水の中にいると体調も良くありません。
元々、俺の体は、川に住むのに適するようにできているんだ。
それでも、俺は、広い海まで行きたい。
そこには、川と全く違う世界があるに違いない。
そのためには、海で生きていける海亀になりたい。
海亀に変身する術が欲しい。
そこで、河童は、タヌキ達に海亀に変身する術を教えてくれるように頼みました。
その夜は、タヌキ達は、
「また来るから」
と素っ気なく帰って行きました。