(9)増え続ける仕事を処理するには、作業環境を整えなければならなかった。まず、作業場を広くしたい、助手も必要だ。
劇画に登場させる人物の表情、衣装、履物、武具、また、背景となる建物、城、風景、家具、置物等を、描写する時代に合わせられるよう、諸々知識を充実させる必要があった。得られた知識で、漫画のストーリに合わせた時代考証を確認したり、人物・動物を描いたりする。諸事を知る手掛かりとして、新刊書・古文書・百科事典等を取り揃え、手元に置きたい。
また、劇画を描くには、侍のタテ、表情、戦う姿を、リアルに描かねばならない。そのため、自分自身が主役・切られ役等の登場人物になりきり、刀を構えたり、切ったり、切られて倒れたり、眉を吊り上げ睨んだり、泣いたり、笑ったり等の、色々のポーズを鏡に映して確認する。そのためには、木刀等を振り回せるほどの空間が欲しい。
最初のうちは、アパート近くの農家の空いている2階の部屋を借りて作業場として使用した。
(10)努力の甲斐あり、つぎつぎと作品を、単行本として、また、月刊誌・週刊誌等に発表することができ、それに伴って収入も増していった。昔のように、衣服、食べ物には不自由しなくなり、贅沢な食事もできる、便利な電気製品も買える。興味ある家電新製品やその他の家具は、それほど必要ではないものも買い、楽しめるようになった。
劇画家としての収入の見通しが、大きいものであることを確信すると、アパート住まいを切り上げ、一軒家が欲しくなった。新築物件を探すと、練馬の東大泉に2階建て庭付きの物件があり、これが気に入り購入した。4LDKで一部屋を作業場にすると、十分な広さであった。刀を振り回す空間も確保できた。劇画描きに多忙を極めたが、経済的なゆとりは、何かをやろうという好奇心を掻き立てた。
昭和40年代頃に出回っていたリール式のテープレコーダを購入した。音楽を録音して楽しんだが、彼は、劇画のセリフを吹き込んで録音し、それを聞き、劇画の中で、文字で書いたセリフの迫力を体感するものとしてテープレコーダを利用した。
また、寸暇を癒すために、熱帯魚アロワナを、大金をはたいて飼った。これには、その世話に参り、後悔した。
運転免許も取ろうと決心した。家の中で仕事をする劇画家には余り必要ではないと思ったが、なんとしても、車が欲しく、車を運転したかった。同年齢の人と同じ日数で運転免許を取ることが出来た。









