闇を越えて(1) | リュードさんのブログ
プロローグ
世の中には、光と闇が存在する。
闇は人に絶望を与え、光は前に進む力となる。
だが、光と闇は表裏である。
光に向かっていこうとする人と闇に向かっていこうとする人は、常に違いがある。
闇と光は常に綱引きしているのだ。
だが、希望という名の光は誰にでも存在する。
どんな闇の中でも、光は必ず存在する。
それを、忘れてはならない。
美しい海の浜辺で、四人の子供達が、木の棒を使って遊んでいた。
剣道の技を四人共にできていた。
男の子二人と女の子二人が木の棒で、対決した。
一人は天城優斗・もう一人が国島雄介といった。
優斗は、ゆっくりと女の子の顔を見る。
女の子は、二人とも笑顔で、二人とも、応援していた。
あまり目立たないのが、月島清美、そして、目立つ方が倉橋幸子といった。
だが、男の子二人が見てるのは清美だった。
清美は、ショートヘアで目がくりくりしていて誰が見ても可愛い。
一方、幸子は髪が長く男女と言ってもいいような顔だちで、本当に目立つ。
そして、活発に動く。
一方、清美はおしとやかな普通の女の子だ。
優斗と雄介は、木の棒で、対決していた。
どちらとも、譲らず強かったが、優斗は突きで決めた。
見事な一本勝ちだった。
清美と幸子の勝負は、勝負事となると別人のようになる、清美はやはり、強く幸子を一本勝ちで勝っていた。
だが、優斗と清美が戦う事はなかった。
そこに一人、現れた。
優斗達四人は、その人物を見て笑顔を向けた。
その人物も笑顔を向けて、こっちに走ってきた。
名前は倉橋哲也、幸子のお兄ちゃんである。
年は12歳、離れていて今年高校生になった。
でも、優しく明るくて四人は慕っている。
清美にとっても、重要な人物なのだが、清美は何も知らない。
哲也は、清美を見て頭をなぜた。
「清美、剣道はちゃんとやってるか?」
清美はな撫でられて、くすぐったそうにしていたが、哲也の質問で
「清美、剣道始めて二年だよ。
清美、強いんだよ」
と照れくさそうに言った。
哲也は、清美の鼻をつまんで
「強いなんて言葉はな。お前のお父さんから、一本とってからいうんだ。
お前はまだまだだ。
それにどんどんこれから強くなる。
お前自身が、剣道を極めたと思うまでは、自分が強いなんていっちゃだめだ。
これは、兄ちゃんとの約束だ」
清美は頷いた。
「わかったよ。哲也兄ちゃん。
パパに清美は勝てるようになる」
哲也は、満面の笑みを浮かべて
「そうだ。そのいきだ」
そして、また、頭をなぜた。
その姿は、本当の兄と妹にしか見えなかった。
清美は、哲也兄ちゃんに送られて家に帰ると、清美は遊び疲れて寝息をたてていた。
月島知子さんは、その姿を見て満足そうに笑みを浮かべてその様子を見ていた。
「哲也君。いつも、ありがとうね。
清美達四人の遊び相手になってくれて」
哲也は笑みを浮かべて
「いいんですよ。でも、よく、この四人に英才教育されるのを、許しましたね。
確かに、普通で考えればその通り何ですが、この可愛い清美を見てたら何となく違和感があって、ま、うちは、倉橋久光の孫ですから、やむを得ないんですが、月島望さんも、そういうこと言うタイプには、見えないので・・・・・・」
そこに、望が帰ってきて
「清美みたいなタイプには、英才教育が必要だ。
清美は、何をやらしても、才能に溢れている。
その才能の原石である清美に英才教育は必要だ。
お前もわかってるんじゃないのか?
剣道をたった二年、教えてるだけで、紙が水を吸うように強くなる」
哲也はニヤリとして
「松山慶一郎から、指示でもあったんじゃないですか?
清美の才能を見て、あの人が黙ってるわけないでしょう。
うちの幸子でさえ、倉橋久光がほっとかないんですから」
「ああ、その通り、自慢の娘さ。
あの、松山慶一郎が、ほっとくわけがないさ。
おそらく、あの人は、松山家の後取り候補と考えてるだろうが、清美を渡すつもりはない。
清美が、将来、誰を好きになるか知らないが、その人物のみが、清美を手にすることができる人物だ。
そのことは、お前にもはっきりいっておく」
哲也は笑みを浮かべて
「その言葉を待ってましたよ。
清美にお似合いの相手何て、そうそう、見つかりませんが、その言葉を聞いて安心しました。
さすがは、経済界の革命児です」
清美の父である望は、会計士として、中小企業を育て上げて、大企業に成長させたり、会社を大きくさせたことで、経済界の革命児と呼ばれているのだ。
ちなみに哲也は、倉橋久光元首相の孫で後継ぎ候補と言われている。
当然、その妹である幸子もそういう目で見られている。
国島雄介の父親は、警視庁の捜査一課長で、将来、警察庁長官候補の一人である。
天城優斗の父親は、官房長官の秘書で、将来は、後継ぎと呼ばれている。
この四人は、ある意味、将来が決まってると言ってもいい。
ちなみに、松山慶一郎は、元首相で、清美は曾孫だ。
望さんも、松山慶一郎に会わせに行ってることからもわかるように、現時点で、日本人の中では一番偉く、裏世界では、カイザー即ち、皇帝と呼ばれている。
二番目は、田沼剛蔵、同じく元首相で、モリアーティと呼ばれている恐ろしい人物だ。
哲也も、久光に連れられて会ったことがある。
ちなみに、うちの父と母は、権力とは無縁だ。
医者として、患者を救うこと以外、頭になく、母は祖父と縁を切った。
それでも、孫である自分に対して後を継がせたいと、祖父は考えているのだ。
母は、道は自分で決めるように言われていた。
母の名前を倉橋雅美という。
高校三年生になってから、祖父と仲違いをした。
というわけだ。
だが、哲也は検事になりたいという気持ちがあった。
だから、継ぐ気はない。
望は、自宅の部屋に哲也を広い玄関からあがらせて、自分の部屋に連れて行った。
二人きりの時間、哲也が唯一、望相手に本音で話せる最高の一時、望は山のように仕事を抱えているためなかなか、会える時はなかった。
それでも、望は、清美を肩車しながら、会計事務所や松山慶一郎のところに連れていくところがあった。
望の部屋は、あの忙しさで整理整頓されていた。
見たいものを見ようと思えばすぐとりだせた。
望は、哲也を椅子に座らせた後、自分も机の前の椅子に座った。
「哲也、どうだ?勉強の方は?」
哲也は笑みを浮かべて
「余裕だよ。親父。俺は親父の息子なんだから、勉強はできるさ。
問題なのは、日本には繰り上がりで、学年を越えることができないことだ。
俺はもう、大学の勉強ですら、できてるんだ。
早く検事になりたいよ」
哲也と望は親子だった。
高校三年生の時にたった一回でできてしまい、雅美は、望に隠して行方をくらまして、自分一人で、倉橋家の別荘で哲也を育てながら、大学に通い医者となった。
望と再会するのは、それから、12年後、哲也11歳の時、勿論、知子にも話してあった。
雅美と知子は幼なじみで、事情を知子に雅美が、再会した時に話した。
清美0歳・幸子0歳の時である。
哲也は、初めて望と会った時の事を一度も忘れたことはなかった。
「君が哲也君だね。私が君の本当の父親だ。
君は、雅美に似たみたいだな」
哲也は、最初は睨みつけて
「ふざけるな!母さんがたった一人でどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「ああ、そうだろうな。だが、彼女にとって、俺にだけは迷惑をかけたくない。
その一心だったんだろうな。
俺が、将来、成功してほしいと彼女は願ってたんだ。
例え自分を犠牲にしてもな。
でも、そのおかげで雅美は、君のお父さんに出会えたんだ。
何も知らなかったとはいえ、俺の罪は重い。
だから、これから君との関係を父子としてやり直すわけにはいかないか?
哲也」
そう言っていきなり、哲也を望は抱き締めた。
哲也は何も言えなくなった。
とても温かかった。
これが、血の繋がりということなのだろうか?
哲也は何もせず、そのまま望に任せた。
それ以来、哲也は望を慕うようになった。
あの冷徹な祖父を思い返しただけで、手に震えがくる。
同じ血の繋がりと言っても全然違うなと思った。
そして、いつしか、尊敬の対象に変わった。
だから、今がある。
望は、一言考えて
「勉強ができるんだったら、他のことに力を入れて見たらどうだ?」
「他のことって、柔道とか合気道とか?」
「お前は剣道は六段だったな。
柔道でも合気道でも、探偵でもいい、やっておいて損はないぞ」
哲也は驚愕した。
「俺が探偵・・・・・・」
「そうだ。そういうことができるのも、今のうちだ。
謎が謎を呼ぶ事件を解決させていくのは、ワクワクするぞ」
と元高校生探偵の望は、試すかのように言った。
だが、哲也は、探偵はやらなかったが、柔道・合気道は、徹底的にやった。
勿論、清美にも、稽古をつけた。
清美は、紙が水を吸うように、強くなった。
そこは駄目と言ったところを、次の稽古では、確実に治してくる。
まさに、天才だった。
ある日、清美は、望に連れられてアメリカに行った。
哲也は、一瞬でわかった。
拳銃の撃ち方を教えに行ったのだと。
哲也も、望から、銃の撃ち方を習ったからだ。
三日で、100発100中で当てれるようになり、本職のFBIに実戦形式の練習もさせてもらった。
おかげで、かなり自分は強くなった。
清美が、帰ってきた後、ある博士の元に向かった。
ここには、子供の頃から、世話になっている子供好きの博士がいた。
博士は、望とも知り合いで仲が良かった。
ここの地下一階には、射撃の練習をする場所がある。
清美の実力を見るとさすがの力があった。
博士も驚いていた。
「あんな子供が、あれほどの射撃の腕をもつなんて、天才というのはいるものだ」と感嘆の声を出した。
この地下室では、色んな訓練ができた。
剣を使って稽古したり、勿論、目的は相手の剣を落とした方が勝ちだ。
清美も幼なじみと共に訓練に励んだ。
四人共に、素晴らしい才能があった。
この時、未来は輝いて見えた。
ちなみに、望の幼なじみに堺義弘という、捜査第二課課長がいた。
昔は望と共に東の名探偵と騒がれ、警察の救世主とすら呼ばれていて、いつも、二人はライバルで最高の親友同士、いつも、あらゆる事で競いあってきた。
お互いに一歩も譲らなかった。
そして、堺義弘には、哲也と同い年の子供がいた。
そう、高校三年生の時に同じく妊娠させてしまい、その相手の死後、自分の息子として、育ててきた。
雅美とは違い、義弘に全て話していた。
名前は堺正幸、母親の名前は、守田久美、彼女も知子と雅美と幼なじみである。
義弘に言えたのも、守田家は、義弘との結婚を認めていたからだ。
それが、倉橋家と違うところだ。
義弘は、誰に対しても明るく優しくて、正に警察官になるために生まれたような男だった。
だが、その中には、闇があった。
守田久美が、何者かに殺されたからだ。
13年前の出来事だった。

