小児科教授はありのまま、遺族に話し・記者会見を行った。

私は、小児科のあまりに忙しすぎる状況がつくりだしたミスは、あまりにショックだった。

この医療ミスで細田が、圧倒的に学長選挙で有利になった。

私は内科にすぐに研修を移り、ついに国谷先生の三番弟子の国島幸弘と出会った。

国島先生は、優しい目をしていて、患者を必ず自分が救うという信念を常にもって、研究と臨床を行っていた。

国谷先生の弟子は、本当に立派な人ばかりが育っていた。

国谷先生の偉大さを、改めて感じた。

国谷正吾の罪を、自分の命と引き換えに黙ってくれと言った新井教授の意味が、改めてよくわかる。

もちろん、正しくないのはわかってる。

犯人隠避にもあたるだろう。

だが、それを封じ込めるだけの価値が、国谷先生にはある。

国谷先生自身がやった犯罪ならともかく、自分の知らないところで起きた正当防衛で、名に傷がつくなど間違ってると私は思った。

そして、国島先生の後押しで内科の教授が、学長選挙にでることになったのはこの時である。

教授は、細田が学長になるのを阻止するために立ち上がった。

国島先生の研究が、教授の研究として発表すれば確実に勝てる。

私は国島先生の助手をやって手伝った。

二人の苦渋の決断を私は見た。

私は国島先生に厳しい表情で

「細田は、小野田教授の後ろ楯があると思って調子にのってるだけですよ。

先生、ボロを出し続けてる細田を捕まえられないんですか?」

国島先生は苦渋の表情をして

「残念ながらできないんだ。

それをやればこの病院は政界を敵にまわすことになる。

そうなったら、この病院は終わる」

私は沈黙するしかなかった。

そこに小野田が現れた。

「安心したまえ。国島君」

私達は驚愕して

「小野田教授!?

何故、こちらに?」

「簡単な話しだよ。

細田は、どうやら小田勝の秘書と繋がってたらしい。

だから、細田に引導を渡しにきた。

それと君達に言っておこう。

政界には、小田勝がいなくなった今、誰に恥じることもない健全な世界だ。

それと学長には伊藤教授になってもらうから安心してくれたまえ。

そして、国島君。君も助教授に昇進だ。

だから、この件はこれで終わりだ。

いいね?」

そう言うと小野田は去った。

小野田はばっさり細田を容赦なく切った。

「国島先生、これが教授のやり方ですか?」

国島は拳を震わせて

「そういうことだ。

君も今回の件は忘れてくれ。

この病院は守られたのだからな」

その頃、看護大学では異変が起こっていた。

市原教授が突然、解雇された。

イギリスからやってきた謎の人物が、教授になった。

彼の名前を伊島正と言った。

伊島が新しい教授になったのを知ったのは、細田が失脚した後だった。

いきなり研修が中止になり、伊島教授に呼び出された。

「初めまして。古波蔵君。

私の名前は伊島正、新しい教授として赴任した。

私が教授になったからには、新井教授や市原教授のように甘くはないし、特別扱いはしない。

それと忠告として言っておく。

事件には何があろうと首を突っ込むな。

もし、突っ込めば君は退学だ。

市原教授が、解雇されたのも君が、まったく関係のない学長選挙に首を突っ込んだからだ。

学長選挙には、裏で金が動いてる。

そして、その裏には政界との利害関係が絡んでる。

いわば市原教授は、何もわかってない世間知らずのお嬢ちゃんのために見せしめになったということだ。

市原教授は、君を退学させるか、自ら教授の職を辞するか選べと言われて、職を辞することを選んだということだ。

だから、危ないことには二度と関わるな。

君の命にも関わる。

そして、自分の身勝手な行動がどれだけ迷惑をかけるかということも覚えておくといい。

君の将来のためにな」

私は肩を落とすしかなかった。

しかし、伊島教授は小野田の息のかかった人間ではないのはすぐにわかった。

言った通り誰にも特別扱いはしなかった。

私は市原教授の自宅に行き、会いに行った。

居間に案内され、椅子に座った。

「よう。古波蔵君。よく来てくれたね」

私は頭を下げて

「教授、申し訳ありません。

私のせいで・・・・・・」

教授は笑みを浮かべて

「気にしなくていい。

君に国島を手伝えと命じたのは私だ。

命令した本人が、責任を取るのは当たり前の話しだ。

それに、私は国谷先生の力でイギリスの大病院の教授になることが決まった。

問題は君達の方だ。

伊島教授はマニュアル通りにしか動かない。

今、政界に看護大学は目をつけられてるから動けない。

あと三ヶ月辛抱しなさい。

それにもうすぐ、格闘技の大会があるんだろ?

たまには、そっちに集中してみるのもいいだろう。

息抜きだと思いなさい。

だから、おとなしくしてるんだぞ。

それに今回のことは、君にとっていい勉強になったと思うしな」

と意味ありげに私を見た。

なるほど。全て計算づくだったんだ。

これも、アレクサンダー教授が私に与えた試練というわけか。

これが、市原教授との会話になった。

正直、悔しかった。

誰かの掌の上で踊るのは。

私が教授の家から出ると、石川明が現れ

「俺のバイクに乗れ。

スッキリするぞ」

私は、明のバイクの後ろに乗って、風が凄く気持ち良かった。

そして、道場に入り

「今日から俺が鍛えてやる。

大会近いんだろ?

攻撃してこい。遠慮なくな」

私は、連続でパンチを繰り出した。

それを、軽々と明は防いでみせた。

蹴り技も使ったが、それも防がれた。

明は笑みを浮かべて

「まだまだだな。だが、女にしてはたいしたもんだ。

次は剣道で打ち込んでこい。

ストレス解消には、ピッタリだ。

そして、自分の精神を統一する意味でもな」

私はおもいっきり打ち込んだ。

全部当たり前だが、防がれたが、私の精神は統一できた気がする。

明は私を見て

「少しはストレス解消になっただろ?

ストレスがたまった時は、剣道をすることで気が晴れるぞ。

剣道は、剣の極意だからな。

竹刀ではあるが、剣道は奥が深い。

大会が、近いんだ。

これからは、逆に言えばこっちに集中できるということだ」

と優しい目で明は語った。

教授も明にも同じこと言われるとは思わなかったなぁと内心苦笑いした。