私は祈りの木の前に瞬間移動した。

そこには、頼もしい美青年が笑みを浮かべて待っていた。


「久しぶり。エルトシャン」

私は手を差し出して、エルトシャンはガッチリ握手して

「ああ、久しぶりだな。レナ。

見事な芝居だったな。

お前があそこまでやるとは思わなかったよ」

私は溜息をついて

「仕方ないでしょ?

全てを欺かなければ、私の美里を隠せないんだから。

それに、私にとってはクローンだろうと大切な娘と同じだから。

あなたもわかってるでしょ?

オリジナルだろうとクローンだろうと、命の重さに差がないことくらい?」

「ああ、お前の言う通りだ。

本来なら、そんなことをやりたくないことも、わかってるよ」

「命の尊厳を何だと思ってるんだって感じだよね。

私達も結局、天魔族とやってることは変わらない」

その瞬間、エルトシャンは私を引っ張たいた。

「馬鹿野郎!奴らは人の命を何とも思わない連中だ。俺達は全てを懸けて誰もが笑える世界をつくるために戦ってるんだ!

それを忘れるな!そもそも俺達と奴らを比べる時点でどうかしてる!」

私は今まで誰にも怒られたことはない。

大神オーディンも、父上も、ユリア姉上には厳しく怒鳴りつけたのに、私には怒ってくれなかった。

何かそこには、自分がいらないようで、寂しかった。

だから、怒られたかった。

私は軽く笑みを浮かべてた。

エルトシャンは笑みに気づいて

「お前、わざと俺を怒らせたな?」

「わかっちゃった?」

そう言うと黙って私を抱きしめた。

「辛かったな。誰も、怒ってくれないのは。

それは、自分の居場所がそこにないような感覚になるよな。

でも、皆、お前が可愛くて・可愛くて仕方なかったんだ。

そして、お前のタイプを見たら怒ったら壊れてしまうじゃないかと思っちゃうんだよ。

お前は怒られて、伸びるタイプには見えなかったからな。

だから、皆、優しくしたんだ。

それが、お前を追い詰めてたんなら、すまなかったな。

大神オーディン殿も、レインもわからなかったんだろうな。

お前に関しては」

エルトシャンは、初代ゴッドの実の息子で次男なのだ。

だから、彼は私にたいしてもため口なのだ。

ま、私にとってはお兄ちゃんのような存在だけど。

でも、彼は天使族に転生させられたのだ。

いざという時の切り札として。

だが、聖魔族がデビウスに化けて、エルトシャンを殺したのだ。

それが、今、この世界の中に潜んでる聖魔族の中堅幹部なのだ。

こいつが、賢者族をめちゃくちゃにして操り下僕として使い、賢者族を操って、次々に色んな一族を操り始めたのだ。

それほどまでに聖魔族は強い。

「ところで、美里には言ったの?

あなたの本当の正体」

エルトシャンは首を振って

「言えるわけないだろ?

あいつは、この時代で生まれた人間だ。

ゴッドの子孫であるなんて言ったって、理解できないさ。

時代が違うんだからな」

私は腕を伸び伸びさせながら

「そうだねぇ。時代が違うもんね。

アッシュールは、特にそう思ってるみたいよ。

そして、不器用なユリア姉上もね」

エルトシャンは吹き出して

「不器用なんて言葉が、お前からでてくるとは思わなかったな。

それだけ、自分にようやく自信がもてた証拠だ。

よかった。よかった」

そして、私の自慢の息子達がやってきた。

男の子は私を見て

「ご無沙汰しております。

母上」

私は笑みを浮かべて

「うん。久しぶり。シャナン。

美里はいい子してた?」

シャナンは会心の笑みを浮かべて

「いやいや、こいつは甘ったれで困りますよ。

オーディン族の戦士としては、問題ありですね」

私は美里を抱っこした。

「あんたは私に似ちゃったのね。

そして、エルトシャンが、余計、甘やかしちゃったのね?」

私はエルトシャンを見ながら言うと

エルトシャンは笑いを堪えながら

「気にするな。実戦経験を積めば、お前みたいに簡単に越えるさ。

それにお前は、美里を自由に女の子として育てて構わないって言ってたよな?」

「うん。言ったよ。女の子の武器は可愛らしさだからね。

その可愛らしさが、男を自然に引き寄せ、いつの間にか男を意のままに動かせるようになる。

そうなれば、自分の存在を完全に隠すことができる。

それが、策士というものなのよ。

わかった?美里」

美里は頷いた。

「木は森に隠せですね?」

私は美里を頬擦りしながら

「うん。そういうこと」

シャナンは苦笑いしながら

「母上は、美里に甘すぎですよ。

オーディン族の皇女がそれでいいんですか?」

私は不敵な笑みを浮かべて

「いいのよ。この娘が戦うのはもっと先だから。

それよりあんたよ。

シャナン。

あんたは、私のクローンと警視庁に潜入して動いてもらい、東京都知事の息の根を止めてもらわなきゃならないんだから」

間をおいて美里を降ろして

「シャナン、あんたがどれだけ腕を上げたか確めさせてもらうわ」

私は気配を出し、私専用の星神剣を抜いた。

シャナンは、本来の姿に戻り、シャナン専用の仙神剣を抜いた。

私は笑みを浮かべた。構えが神皇にそっくりだ。

やっぱり父子だなぁ。

私は魔法を唱えながら向かっていった。

シャナンも、同じように向かって来た。

剣と剣がぶつかった。

お互い、力は半分以下の力で戦ってるのに桁外れだった。

エルトシャンは二人の戦いを見ながら

「美里、よく見とけよ。

お前が切り札だから、お前を現時点で戦わせてないだけなんだからな」

「はい。わかっています」

そして、その間も魔法と魔法がぶつかりあっていた。

シャナンは仙神族奥義を放った。

私は斬鉄剣で切り裂き、シャナンの首元で止めた。

「シャナン、前よりは腕を上げたみたいね。

安心した。

二人がかりなら、あいつを倒せそうね」

私は剣をおさめた。

シャナンは私に礼をして

「ありがとうございました」

私はシャナンの肩をポンポンと叩いた後、後ろを向いて

「はぁぁ」

と炎の奥義を後ろにある草影に向かって放った。

そこから、一人の男が現れ、炎を斬った。

「いつまで、気配を消して隠れてるのよ。

神皇!」

神皇は苦笑いしながら

「まったく。久しぶりだって言うのに。

とんだ挨拶だな。

レナ」

私は睨みつけて

「いつまでも、気配を消してるからでしょ?」

神皇は黙って近づいてきて、私に熱いキスをして、抱きしめた。

「俺も会いたかったよ。

レナ」

「私も会いたかった。神皇」

子供達が見てる前だというのも忘れて、抱きしめあってた。

私と神皇が出会ったのは、六十五年前。