俺と八州治は、新しく美術協会を結成した。

だが、戦争の影響で自由な思想が許されなくなるという悪夢がとうとう起こった。

そう、前々から予想していた冬の時代だ。

だが、嬉しいこともあった。

それは、娘の加寿子が誕生したのだ。

そして、今は笛子は二人目を妊娠中だ、東京にきてから二年が経とうとした頃、桜ちゃんが笛子を助けるために上京してきた。

それは、自由な思想が許されないため絵を描くことができなくなっていたから、収入もない状態だった。

食いぶちは、八州治が従軍画家となったことでそこから収入を得てなんとか生活できてる状態だった。

そして、桜ちゃんが笛子とお腹の子供のために持ってきた食べ物をあまりにも腹が減ってた俺達で食べてしまったために桜ちゃんは激怒!

「冬吾さん、酷いじゃん!この食べ物は、お姉ちゃんの子供や加寿ちゃんにちょっとでも滋養をつくもん食べてもらおうと思って持ってきたのに!」

俺は、その言葉にはっとした。

「それは、すまんかったな。気づかなかった。」

「気づかないなんておかしいよ!」

笛子が出てきて、桜ちゃんの怒りを静める。

その後、栄養失調と働きすぎで笛子は倒れてしまった。

俺は、笛子に謝った。

「すまんな。絵の事や仲間の事ばかりに気をとられておめぇの事にまで気がまわらなかった。」

「いいよ。あなたの本分は絵を描く事なんだで。」

そこに、新しい仲間の鮎川和之が姿を現して謝った。

俺と八州治と守田と八重と和之の五人で絵を描いているのだ。

だが、桜ちゃんは俺を睨みつけていた。

そして、食べ物対策として有本家にある笛子と杏ちゃんの着物を売って生計を立てることにした。

桜ちゃんは、その後俺に説教しにきた。

「冬吾さん、ちょっといいですか。」

間をおいて、桜ちゃんは言った。

「お姉ちゃんのこと、もっと考えてもらえませんか?」

「考えるってどうするんだべ?」

「絵を描く以外の仕事もちょっとはするとか!」

俺は、思ってる事をそのまま話す。

「桜ちゃん、俺は徴兵検査の時、肋膜に影があって兵役免除になったんだ。」

桜ちゃんは、驚愕した。

俺は話しを続ける。

「だともこんな時代だ。

仲間達は、また一人また一人と兵隊にとられてく。

次は、俺の番かもわかんねぇ。

兵隊さとられて、片腕がもげたら残った片手で俺は絵を描くべな。

それでも、死んだらおしまいだ。

俺には、今しかないんだ。

わかってくれ。桜ちゃん。」

だが、この時の俺の考えが後に取り返しのつかないことになってしまうなど俺もそして、笛子も考えていなかった。

そして、亨が生まれた。

桜ちゃんと磯伯母さんが、杏ちゃんが間に合わないために取り上げてくれたのだ。

俺は、亨とつけた。

「生まれてきた事を、神様が祝って下さったという意味だ。

亨、おとぉだ。わかるか?」

笛子は、笑いながら

「まだ、わからないよねぇ?」

「だべか?わかってるんでねぇか?」

「いい絵を描いて下さいね。

この子のためにも。」

「この子が、絵のわかる年頃には戦が終わってるといいな?」

そこに、桜ちゃんが入ってくる。

「浴衣とオムツ持ってきた。」

「ありがとう桜子。」

「いつも悪いな桜ちゃん。」

この時、桜ちゃんの中に決心が芽生えたなど俺は考えもしなかった。

桜子ちゃんは、笑顔で

「全然、ちっともだ。」

この言葉に俺も笛子も、笑顔になる。

持つべきものは、頼りになる妹だと心から思った。

翌日、磯叔母さんが豪勢な食事を作ってくれた。

叔母さんは、笑顔で言った。

「皆さん、これ食べて元気つけて下さいよ。」

と言った。

しかし、これには実の息子である和之のためだったことなどこの時は、誰も気づかなかった。

鮎川と奥さんの間には、子供ができなかったため磯との間でできた子供を鮎川家の人間として育てたとそう言うことだった。

桜ちゃんは、冬吾の絵を応援するため笛子が桜ちゃんが嫁入りの時、着せようと思ってたものをお金に変えてほしいと言ってきた。

「これ、展覧会の費用に当てて下さい。

全部は、賄えんだろうけどこの前売った着物と合わせたらまあまあの額にはなるでしょ?」

笛子は、困惑したように「でも、これはあんたの嫁入りの時の。」

俺も言った。

ただでさえ桜ちゃんに、助けてもらってばかりだというのに、受け取れるわけがない。

「これは、もらえねぇな。」

「一生に一度しか着ない着物、とっておいてもしょうがないです。」

俺も困惑しながら

「ばってん桜ちゃん、」

その言葉に笛子が着物を受けとる。

「ありがとう桜子。この着物役立たせてもらうわ。

この子ができて、この人にも形のある仕事をさせたいと思っとった。

ありがとうね。」

桜ちゃんは、笑顔で頷き「冬吾さん、お姉ちゃんのためにも加寿ちゃんや亨ちゃんのためにも頑張って展覧会開いて下さいね。」

俺は、心から思った。

本当に、桜ちゃんはいい娘だと。

周りを、プラスの方向にもっていくところはさすがだと。

桜ちゃんが、ここに来てからいい方向に向かってきてる、桜ちゃんの存在の大きさを改めて俺は実感した。

俺は、必ず成功させるという決意で頷いた。

もちろんこれを、受け取れたのはこの着物を売ったとしても、達彦君が帰ってきたら、山長が責任もって山長の嫁にふさわしい着物を桜ちゃんに用意してあげるはずだと思ったからだ。

次の日から俺達は、展覧会の開催に向けて動いたのだった。