石川は、笑顔で聞いてきた。

「君こそ、内科部長の椅子はどうだ?」

恵里は、苦笑いしながら言った。

「正直言って、大変ですね。

内科的研究に力を、入れたいのに次々に仕事が入りますかね。

外科と内科は、まさに一心同体だから、外科で大きな病気があると内科的治療のために動かなければならないですからね。

正直言って、石川先生・新井先生、三人で研究してた時の方がよかったですね。」

石川も、苦笑いしながら考えながら言った。

「君は、本当に正直者だな。

私は、優秀な部下に恵まれてるから不可能を可能にしてしまうくらいのことまでこの病院ではできる。

君には、優秀な部下が必要なのかもしれないね。」

恵里も、驚いた表情で

「不可能を可能にする優秀な医者ですか?

うちの内科には、残念ながらいませんね。」

だが石川にも、悩みがあることは、見ただけで理解できた。

それは、そうだろう。

石川ほど優秀な医者が、経営者という立場で事を判断して医療をしなければならないのだ。

病院を、どうするかという事も病院長の役目である。

つまり、したい研究をしたくてもできないというわけである。

だが、恵里を見るとホッと一息ついた感じだった。

お互いに、研究に集中できたあの時とは違うのだ。

恵里は、北栄総合病院に戻ると、厄介事が待ち構えていた。

それは、外科にいる高橋龍馬からの呼び出しだった。

高橋に、会うのは初めてだった。

恵里が来たのを見ると

「上村先生、初めましてですね。

私は、高橋龍馬です。

上村先生、あなたを呼んだのは、実は頼みがありましてね。」

恵里は、戸惑いながら

「頼みですか?」

「ああ、私はおそらく助からないだろう。

北栄総合病院に内科医として、アメリカから私の息子がくる、君の片腕となる逸材だ。

息子は、はっきり言って問題ばかり起こすやつでもあります。

それは、医療の問題点を次々に追求しながら医者をやっています。

もしかしたら、あなたにとっても厄介な存在になるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

恵里は、笑顔で答えた。

「高橋さん、あなたは助かりますよ。

息子さんについては、よく知ってますよ。

イギリスで、息子さんは有名でしたからね。

あのローエングラム学長相手に一歩もひかないところを、ローエングラム学長に一目置かれてましたからね。

私とも、知り合いです。

ま、問題ないと思いますよ。」

そんな時、厚生労働大臣になったばかりの武岡真二がやってきた。

恵里を見ると、

「初めましてですかな。上村先生。

私は、厚生労働大臣の武岡真二といいます。

あなたのことは、副大臣から、よく聞かされます。

それと上村先生、もう一人紹介したい人物がいます。


それは、あの官房長官になったばがりの田所だった。

「久しぶりだな。上村先生。」

田所は、今回、組織を潰した際の影響を少なくするために誰よりも動き日本経済を安定させ、HOPE病院づくりに誰よりも力をそぞいた男である。

まさに、今の内閣に田所ありというのを見せつけたのだ。

そして、高橋龍馬とは親友同士だった。

「上村先生、高橋を救えるか?」

恵里は、真っ直ぐみて言った。

「担当が、栗原先生ですから安心して下さい。

必ず助かります。」

田所は、

「君は、オペに参加しないのか?」

恵里は、笑顔で答えた。

「私は、内科部長という立場です。

やることは、山ほどあります。

ですので私は、オペには参加しません。

でも、栗原先生に任せておけば大丈夫ですから問題ありませんよ。」

田所は、苦笑いして

「まあ、それなら仕方ないが、君にどうしてもやってもらいたいことがある。」

そう言うと、恵里に紙を渡した。

恵里は、法正大学で内科医として講演するよう頼まれたのと、医療の重要性を各省庁の会議の中で語ってほしいということだった。

立場は、リスクマネジメント委員長という立場を兼ねて1ヶ月後、出席してほしいという申し出だった。

恵里は、法正大学の方はともかく、お偉いさんがたくさんいる中での出席は、さすがに驚いた。

「何故、省庁会議の講演が、私何ですか?」

田所は、言った。

「実は、内科の研究予算を上げるために、内科の権威の発言が必要なんだ。

その会議で、内科がどれだけ重要なのかを語ってほしいんだ。

話をしてくれれば、北栄総合病院を優先して予算額を上げることを約束しよう。

内科の未来が、かかってる。」

恵里は、呆然として聞いていた。