確かに表面的には、事件は全て終わったように見えた。

だが記憶を取り戻した恵里にとっては、事件はまだ終わっていなかった。

看護大学一年の時、恵里は石神を刺した。

そして、そこに一人の男が現れ恵里からナイフを奪い取り、恵里の腹部を殴って気を失いかけた時、男は石神にとどめをさした。

男は、恵里に言った。

「こいつの死体とこいつが撮った写真とネガは、俺が処理する。」

そのまま恵里は、気を失った。

そして、彼は恵里にとってよく知ってる人物だった。

彼の名前は、寺田友喜、その時殺された親友の寺田由美の五歳年上の兄で東大医学部の六年で、東大医学部を首席で歩いてきたエリートで、由美が心から甘え慕ってきた兄でもあった。

だとしたら、何者かに刺されて北栄総合病院に植物状態になって入院してきた石神に似たあの男は何だったのかという疑問がでてくる。

だが、石神として処理されてしまったのだ。

DNA鑑定すれば、別人だということはすぐわかるはずである。

にも関わらず、石神として処理された。

この事に、どういう意味があるのかという事である。

恵里は、病院から帰る途中友喜に出会った。

「恵里ちゃん久しぶりだね。

大事な話しがある。」

友喜は、恵里を家に連れて行った。

「恵里ちゃん、その様子だと記憶を取り戻したみたいだね。

一生あんなことは、思い出してほしくなかったんだけどな。」

恵里の表情を、見ながら続けた。

「君も記憶が、戻ったのなら疑問を感じてるだろうからね。

君が、感じてる疑問の通りだ。

俺が、あの時石神を殺して死体も処分した。

ということは、北栄総合病院に運ばれてきた石神は、石神じゃないということだ。

つまり、石神大臣は自分の息子に罪を償わせるつもりで殺したのはまったくの別人だったということだ。

当然、警察も別人だと気づいてるはずだ。

高野の一派が、そんなことをするよう命令する必要もないのにも関わらず石神として処理されたのは謎でしかない。

理由として考えられるのは、石神だと思って刺した犯人の家族に大きなバックがいて石神ということにしてしまったということだな。」

恵里は深刻そうに言った。

「そういうことに、なりますよね。

石神に似たあの人は、誰何ですか?」

友喜は、言った。

「国谷正吾、俺の無二の親友で、国谷先生の実の弟だ。

正吾は、妹が通り魔に殺されてな。

その当時の官房長官の息子が、犯人だとわかったんだが、官房長官に揉み消された。

そこで正吾は、通り魔を尾行して犯行を行おうとしたところを、捕まえようと思ったんだけど、その場でブラジリアン柔術を使ってしまって殺してしまったそうだ。

いくら、正当防衛とはいえこの事が表沙汰になれば兄貴に迷惑がかかる。

だから、自首はできない。

妹の死体を見た上に、君が石神を刺した現場を見てとっさに石神を殺してしまった俺とは違い、自分のミスで殺してしまった罪を償うために、石神の姿で自分は生きていくそう言われて何も言えなかった。

実は、正吾の遺体は俺が引き取って骨もここにある。

国谷先生に言えば、間違いないなく事を表沙汰にしようとするだろ?

だがそれは、正吾の人生そのものを否定することになる。

だから、表沙汰にはできない。

かと言って、正吾を刺した犯人をそのままにしとくわけにもいかないんだよな。

何せ人違いで、刺したわけだからな。

恵里ちゃん君は、どうしたい?」

恵里は、苦渋の表情で答えた。

「正吾さんの人生を、否定するわけにはいきません。

だから、何もなかったことにしましょう。」

恵里は、これで全てがつながったと思った。

井原と国谷のつながりも、妹が殺されたもの同士の仲だったということである。

友喜は、恵里が家を出ていく時言った。

「国谷先生の妹も、生きていれば君と同じ年だ。

だから、実の妹である友美と重ねていたのかもしれない。」

そう言ったのだった。

恵里から、言わせれば正吾のことさえなければ全てを明らかにして楽になりたかった。

恵里は、由美の墓参りに行った。

そこには、一人の男が墓参りしていた。

男は、由美の墓に向かって言った。

「由美、俺は、俺自身の手で敵を取ることはできなかったよ。

ナイフで刺して、植物状態になっただけだった。

でもあいつの罪は、実の父親の手で明らかになった。

お前は、どう思う?」

恵里は、言った。

「由美が、あなたが犯罪者になることなんて望むわけないでしょ!」

男は、振り返った。

「あなたは?」

「私は、由美の親友の古波蔵恵里と言います。

仁科和正さん。」

仁科は、目が飛び出さんばかりに驚いた。

「あなたが、古波蔵恵里さんですか?

由美から、まるで自分のことを話すように聞かされました。」

「私も、由美からあなたの事は聞かされてました。
あなたが、手を汚して由美が喜ぶと思うの!

どうして、手を汚す前に気づかないのよ!」

仁科は、ガクッと膝をついた。

「石神を、見たとたん感情が抑えきれなくなってしまったんです。」

仁科は、涙を流しながら言ったのだった。

「だったら自首しろ!」

そこに寺田伸一が、現れ言った。

恵里も仁科も驚愕した。