西園寺は言った。

「君の成長は、素晴らしいですね。

2ヶ月後の、コンクールに出てみませんか?」

桜子は、いきなり西園寺にそう言われたのだ。

「私でいいんですか?」

「もちろんです。

何よりも重要なのは、経験ですよ。

出てくれますね。」

「はい。出ます。力の限り弾いてみます。」

桜子にとって最高に嬉しかった。

そのコンクールの結果しだいでは、ドイツの演奏旅行に行くことができる可能性ができたということでもあった。

当然、美幸もコンクールに出るのが決まってたので二人で練習を続けたのだが、美幸は車にひかれそうになった子供を助けようとして、怪我をしてしまい、達彦はかねのことがあるために出れないので、西園寺の弟子の中で出るのは桜子と洋介の二人となった。

美幸は、怪我をしながらも桜子の練習に付き合っていろいろアドバイスをしてくれた。

桜子は、寝る間を惜しんで練習を続けた。

西園寺は、桜子の一次で勝負する曲を、ノクターン第2番に決めた。

そして、コンクールが始まった。

第一次で聴いた限り、レベルが高いのが八人だった。

その中でも、洋介とドイツに留学中の二岡雅司という人の実力はずば抜けてた。

そして、桜子の出番がきた。

桜子は、緊張しながらも弾いた。

美幸は、「やっぱり桜子は、緊張してるみたいね。本来の長所が、でてないな。」

これを、聴いてた洋介も「これじゃ一次だって危ないかもしれんぞ。」

だが、途中から桜子は本調子に戻った。

そして、一次を突破したのだ。

美幸は、「桜子ひやひやしたよ。

まったく。」

達彦は、「良かったな有森。」

「なんとかね。」

帰る途中、美幸は聞いた。

「どうして急に、あんなに良くなったの?」

「今日って実は、お父さんの命日だったんだ。

途中から、お父さんの声が聞こえたような気がしたんだ。

ピアノを楽しめって。」

「なるほどね。亡きお父さんの声か。

すごいね。桜子のピンチを救ってくれたわけだ。」

二人は、笑顔で帰った。

西園寺は、第二次の勝負曲は、月光とプラハに決まった。