森の中を一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを差す)が走っていた。
「ねえ、キノ。次の国ってどんな所なのか訊いてる?」
モトラドが訊いた。
「特になにも聴いてないよ、エルメス。新しい国らしくて他の人もあんまり知らない所らしい」
キノと呼ばれた運転手が答えた。
「燃料とかオイルとかが安く買える国だといいね。もしくはタダ」
「あと食べ物もね」
そうこう話しているうちに森が途切れ、灰色の城壁が見えてきた。
「あ、見えてきたね。ちゃんと入国できるかな?」
「エルメスだけだめだったりして」
一人と一台は軽口を叩きながら城壁へ近づいて行った。
「入国ですか?健康な旅人さんなら大歓迎ですよ!そこの書類に目を通して同意書にサインしてください」
入国審査官が言った。
「同意書、ですか?」
キノが少し訝しげに訊いた。
「何か危険なことでもあるの?」
エルメスは少し楽しげに訊いた。
「そんなことはないですよ。現在我が国では献血がブームでしてね、旅人さんにも協力して欲しいのですよ」
入国審査官は楽しそうに答えた。
「献血?それって何?」
エルメスが訊いた。
「事故や病気の方達の輸血などに使われる血液の提供のことですよ。旅人さんがご協力くださるのでしたら、この国でのホテルや食事、必要品の全てを無料で提供させていただけます。注意事項などはその書類に書かれています。どうでしょうか?」
入国審査官はキノに嬉しい提案をした。
「血液、ですか。どうやって取るのですか?」
キノが訊いた。
「針を刺してそこから血液を取ります」
入国審査官のその言葉を聞いて、キノは少し考えた。
「血を抜いて、大丈夫なんですか?体調が悪くなったりとかしないんですか?」
「大丈夫ですよ。人体に影響がない程度の量がわかっているので」
「・・・わかりました。協力させて貰います」
キノが答えた。
「ありがとうございます!検査と採血で一時間弱かかります。エルメスさんは暇でしょうがここで待っていてください。ではキノさん、こちらへ」
入国審査官はキノを奥の部屋へと案内した。
「おかえりー。長かったね」
約一時間後キノと入国審査官が戻ってきた。
「ただいま。なんか精神的に疲れたよ。あんなに太い針で刺されるとは思ってなかった」
「ははは、キノさんの血液は濃さもばっちりで採決係の人も喜んでましたよ。まあ、少しとはいえ血液を抜いた訳ですし、しばらくはゆっくりしてください。ホテルまで案内しますよ。すぐ近くなので歩いてでもいいですよね?」