虎旅~番外編の後半~
その腹痛がどのカテゴリーに属する要因から起因しているのか、
オレの脳内に伝達された情報を整理・解読してみると、
それは間違いなく便意によるものだった・・・
それも2005年に限って言えば、軽くランキング1位にランクされるような、
ワールドクラスな逸品だった・・・
「カチッ」
と、聞こえた気がした・・・
オレの中のスイッチが理性モードから、野性モードへと、確かに切り替わった
音だった・・・
早朝の幹線道路にトイレを捜す、35歳がいた・・・
「必ずトイレは見つかる・・・」と、根拠のない無垢な自信に包まれて
街を彷徨った・・・
己の嗅覚を信じ、野性のおもむくまま、
まるで、導かれているかのように、幾つもの角を曲がり、
幾多の道路を渡り、さすらった・・・
運命に従った・・・
小さな無人駅を見つけた・・・
人って、本当に嬉しい時って、驚くほど冷静なんだよね・・・
でもさっきから汗が止まんない。目にも汗が入っちゃって・・・
アレッ、変だな、これ涙だ・・・
オレ涙が出てるよ、父さん・・・・
走ると、点火しそうになるので早歩きをした・・・
早朝の松山市内のとある無人駅に向かって、油汗をかきながら
早歩きでまばたきもせず突進している不審な男性がひとり・・
安堵すると、堰を切って出てきそうになるので最後まで冷静さを
忘れなかった・・・
そしてやっとの思いで、到着・・・
が、
な い。
ト イ レ が、
な い。
一瞬、ニューウェーブショートコントの中に居るのかと思ったわ。
駅に、トイレが無いって・・・
これじゃ、翼の折れたエンジェルだよっっっっっーーーーーーーーーー!
甘い卵焼きが食べたいよぉぉぉおおっっっーーーーーーーーーーー!
完璧に冷静さを喪失していた・・・
世界基準でパニックだった・・・
パニックの申し子だった・・・
キック・ザ・パニクルーを結成しようかと思った・・・
もはや、一刻の猶予もない・・・
視界が狭まってくる感覚を覚えた・・・
ちょうどこの感覚は、高校一年の部活の時に、
顧問の先生に、無理やり男子400M競争に
エントリーされ、ラスト50Mで酸欠状態になり
次第に視野が狭くなり、スっ転びそうな感じで
ゴールした時のようだった・・・
あれ以来、400Mは絶対に走らないと心に決めていたが、
20年たった爽やかな日曜日の早朝、同じ目に遭うとは、
人生って、パラレルワールドだね・・・アハッ。
と、笑ってる場合じゃない・・・
この時から、体感スピードが速くなった気がした・・・
駅にトイレが無いと分かった瞬間、その駅の隣にある
公共施設っぽい建物が目に入った・・・
即効でそちらに行くと、当然こんな早朝から開いてる
ワケもなく扉は堅く閉ざされている・・・
ふと、視力が上がった気がした・・・
遥かかなたが、キラリと少し光った気がした・・・
疑いもなく、近づいていくと、「国立大学 愛媛大学」が・・・
天の雲間から光のすじが大地に向かって伸び、
それがあたかも光の道かのように、12人の
人なつっこそうなエンジェル達が舞い降りてき、
オレの周りを祝福していた・・・
今回は門も開いてる。そしてオレは果てしなく部外者だが、
愛媛大学って国立だよな、オレ税金払ってるし、ひょっとして
その一部がトイレのトイレットペーパーの購入に反映されてる
かもしんない。
ギリギリかすってるじゃんか。
イケるじゃんか。
12人のエンジェルも口を揃えてそう言っていた・・・
そう、訴えていた・・・
「あ゛っ!」
目を疑った・・・
門の横に、警備室が・・・
それも、きっちりと警備員がパーフェクト監視中・・
いや事情を説明すれば、分かってもらえると思ったが、
その事情を説明している間に、出ちゃうかも知れなかった・・・
自身に自信がなかった・・・
それに、この犯罪が多発している昨今、事情を話しても
「規則ですから」と一蹴される可能性もなくは無い・・
12人達のエンジェルから人なつっこさが消え、
出てくる料理全てにクレームをつける、みのもんたのような顔に
なっていた・・・
残された道はひとつしかなかった・・・
「オレ、大学生に見えねーか?」
オレは確かに35歳であるが、初対面の方に、
28,9歳ですか?と言われる事も少なくない・・・
そのアドバンテージを最大限に生かすチャンスだよっ!
人生の分かれ道だよっ!
遊びじゃなかったんだよー、良子ぉぉぉおおおーーーーーっ!
でも、大学生って、22,3歳だろ?
大学院生としても24,5歳ぐらいだよな・・・
いくら若く見えるといっても、5歳の差は、そう簡単には
埋まらんぞ・・・
しばし、長考したが躊躇してる暇はなかった・・・
「生かせ人生経験! 回転しろっ!オレのスーパーコンピューター!」
と、心の中で叫びながら、一世一代の大ピンチを
オレの本能がどうにかすると信じ込み、門へと向かった、
「媛大ーーーーーーーっ!ファイトオー!ファイトォー!」
警備員の前を通るとき、自然に出たのが上記の言葉だった・・・
オレのいでたち、そうジャージに短パン、ジョギングシューズ。
頭には、タオルを巻き、インチキ愛媛大学運動部部員を見事に
演出し、警備員に疑いを持たれぬように、ここで展開されている、
彼に刷り込まれた日常の風景に溶け込むが如く、
そんな言葉を放っていた・・・
結果、見事にスルー
そして、誰もいない校内のトイレで、歴史に残る1ページが
記された・・・
近い将来、オレは愛媛大学生を助けるような予感がしている・・・
それがどんな状況であっても助けるし、その時確実にこう言うだろう・・・
「媛大ーーーーーーーっ!ファイトオー!ファイトォー!」
校内の木々の隙間から、木漏れ日がふりそそぎ、
既に太陽に焼かれたアスファルトから立ちのぼる蜃気楼の
向こうで、12人のエンジェル達がゴールテープを張り、
オレのゴールを待っていた・・・
愛媛大学よ、ありがとう。
