虎旅~中編~
松山に着くと、今日の宿である友人Tの家にゆく。
Tは去年からこっちに配属になり、奥さん共々
それこそ新しい場所で、新婚生活を送っているのだが、
そのTはK氏と既に外野自由席を確保する為に
並んでいるそうだ・・・
K氏曰く、とにかく応援するなら外野らしい・・・
応援という名のエンターテイメント性をダイナミックに
享受し、体感できる聖地らしい・・・外野自由席というのは。
でTの奥さんと、我々家族は路面電車に乗って
試合の行われる「坊っちゃんスタジアム」に向かった・・・
その異変に自身の持つ心の触覚が、3大テノールの歌声を
至近距離で聴いたかのようにプルプルと震えだすのに
時間はそれ程必要とはしなかった・・・
まだお天道様が遥か上空でギラギラと輝く夏のPM2:30過ぎ、
路面電車が駅に滑り込み、乗り込んできたグラサンをした
男性はパーフェクト違和感のオーラを発揮しながら乗車してきた・・・
そう、阪神タイガースのユニフォームを装着して・・・
ほんわかとした日常。そしてゆるい空気が流れる夏の路面電車の
車内に舞い降りた、魔。つーか、虎・・・
しかし、これまでの人類の歴史がこれでもかというぐらい、
証明している、ある事実。
最初は小さく弱い異端なるも、それが正統を凌駕せんとする
数が集まりし時、異端は正統へ・・・
そして邪道は王道へ・・・
乗り換えのJR松山駅に着くまで続々と乗車してくる異端・・・
あからさまに阪神ファンと分かる、その街中では超浮いた
いでたちも、この路面電車の車内においては次第に
正当性という名の熱を帯びてくる・・・
最初乗り込んできた男性は、この車内が異端から正統になる
瞬間を虎視眈々と伺うが如く、阪神ファンの人数を確認するように
車内をしきりに見回し、数をかぞえているようにも見えた・・・
その刹那、その男性が阪神ハッピを装着した・・・
異端が正統になった合図、そしてその瞬間であった・・・
まさにその時、歴史が動いた・・・
「えっ? ちょっ、ちょっと待ってくれ」と、思わず本気でそんな言葉が
口をついてこぼれ出しそうになった・・・
明らかに、阪神ユニフォーム軍団は一般客より少ねーじゃないかよっ!
まだ異端は半数には達していなかったのだよ、ワトソン君・・・
いや、僕にはそうみえたんだ・・・
そんなフライング気味のその最初の虎男の行為に、
「舞い上がってるんじゃ、ねーよ!」とツッコミを
入れたかったが、ちょっとした夢色旅気分で舞い上がっている
のはオレの方だった・・・
冷静にみてみると普通の格好をしている人たちのバックや
手提げ袋の中から、顔を覗かせている阪神応援グッズ達・・
そして時折聞こえる会話・・・
「今日、下さん?(下柳投手のこと)」とか、
「アニキ(金本選手のこと)調子いいかなぁ・・・」などという
阪神隠語が耳を澄ませば聞こえてくる・・・
そう阪神ファンでなくては見えない事実、聞こえない真実が
そこにはあったのだ・・・
「あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
さっき乗り込んできたOL二人組みっ!
オレの横に立ってて、「結構オレ好みじゃねーの?」とか、
「松山OLと今、この瞬間、最高に近づいてる!オレ、ドキドキ
してるっ!」などと思っていたが、よくよく見ると、彼女たちの
バックにも、応援用のミニバットが・・・
オレはそんな最初の虎男の洞察力に圧倒されつつも、敬服
していた・・・・
そしてぼーっと、虎男を見てると、虎男がこっちをゆっくりと見、
グラサンをかけてるから表情は分からないが、少し眉毛を
あげたようなしぐさをし、
「チッス!」
というようなニュアンスで軽く会釈しているように見えた。
いや、確かに見えたんすよっ!
お客ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーん!
しかしどうして、阪神ファンと分かったのかなぁと思い、
ふと息子の胸をみると、井川投手の小さなピンバッチが・・・
オレは少し、阪神ファンが怖くなってきた・・・
そして松山駅に降り立った瞬間、そこは既に虎色だった・・・
そして乗り換えたその電車は異端が正統となった興奮に
満ち溢れていた・・・
この電車はJRだが、まさに阪神電車だった・・・
そしてオレたちは試合会場を訪れた・・・
そこには妙な緊張感を漂わせた、自分が居た・・・
そして話は、最終章へ・・・
