アンドレ・バロー著 ( ブッダの教え ) より、ヤシャスカラの改心
ブッダが、ベナレスに滞在しているとき、この町に ヤシャスカラという名の富豪の
一人息子がいた。
父母は彼のために三つの御殿を建て、常に息子が五感の楽しみをあじわい、
気晴らしできるようにした。
ある晩、彼は目覚めると 自分を慰めた妓女たちが 眠っているのを見た。
たがいに肩を枕にもたれあい、髪は乱れ、また、離れて横たわる者たちもいた。
いびきをかき、歯ぎしりをし、寝言をいい、うち捨てられた楽器が縦横に散乱して
いる。
この有様を見たとたん、恐怖で全身、身の毛がよだち、嫌悪の念が湧いて、
もはや彼女たちと一切付き合いたくなくなった。
「 なんといやなことだろう ! どうして こんなことに欲望を感じられるのだろう ? 」
と彼は思った。
そこで身をひるがえして この御殿を去り、門から町へ出て ヴァラナー川のほとりに
向かった。
そこに着くと、堤に金のサンダルを脱ぎ捨て、川を渡って 賢者たちの住む鹿の
園に行った。
そのとき、幸いなる師は戸外を散策していて、遠くから若者が来るのを見、ござを
地に敷き延べ、その上に座った。
ヤシャスカラは遠くからブッダを見て、この上なく端麗なその容貌に喜びの念が
湧き上がった。
幸いなる師に近づき、言った。
「 今や、わたしには どこにも逃げ場はなく、どちらに向かおうと、どこに避難しよう
と、苦しみしかありません。 どうか わたしを お救いください。」
ブッダは言った。 「 若者よ、こちらに来なさい。 ここは作られたものではなく、
ここは妨げるものがない。 ここは救い、永遠の静寂、組み合わされざるもの、
( 無為 ) 、官能の喜びの滅尽、欲望の欠如、終息、あなたが探し求める
ニルヴァーナ ( 安らぎ ) である。
その時、ヤシャスカラ青年は、ブッダに一礼したあと、かたわらに座った。
幸いなる師は 彼に順々に教えを説き、励まし、こうして喜びの思いを起こさせた。
その教えとは 施し、持戒、天への転生 の教えであった。
官能の喜びの不純さを非難し、放棄の幸を讃えた。
ヤシャスカラは座って聴くうちに、塵や汚れが消え、澄みきった法の眼を得た。
彼は教えを見、教えを獲得し、教えを完全に把握するやいなや、自身の眼で
観じて 宗教生活の果実を体得し、ブッダに言った。
「 今や わたしの願いは、タターガタのおそばで、浄らかな行いを培うことです。
幸いなる師は言った。 「 来たれ、修行者よ。 わたしの教えの中で喜び、
浄らかな行いを培って 苦の みなもとを涸らすように。」
ヤシャスカラは 上級の戒を受けた。
( ダルマグプタ派のヴィナヤ・ピタカ より )
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