カエルの 裁き
( 仏教説話 ジャータカ物語 ニ三九 )
昔、バーナーラシーの都で ブラフマダッタ王が 国を治めていた時のことである。
ある日のこと、川に住む 一匹の毒ヘビが 魚を追いかけていて、誤って 人間の仕かけた網に かかって
しまった。
魚たちは 恐ろしさで 必死に網の中に逃げ込んだのだが、狭い網に入ってしまうと、今度は 体の大きい
ヘビのほうが 身動きが とれなくなってしまった。
それを見ると、たくさんの魚たちは いっせいに ヘビに襲いかかった。
体中 かみつかれ、血みどろになったヘビは、死に物狂いで 魚と戦ったが、多勢に無勢では
どうにもならない。 ヘビは 死ぬよりましだと、やっとのことで 網の目を食い破って逃げ出した。
体中の痛みに 弱り果てたヘビは、水際に ようやくはい上がると、ぐったりと のびてしまった。
ちょうどその時、一匹の 青ガエルもまた、水際で昼寝をしていた。
傷ついた毒ヘビは なんとも悔しくて たまらない。
どちらが悪いか 白黒を つけてもらおうと、青ガエルのそばに はい寄ってきた。
「 なあ、青ガエル、 あの魚たちは、あんなに大勢で たった一匹の おれに襲い掛かってきたんだ。
おれが 網の中で身動きが とれないのを いいことに、寄ってたかって食いついてきたのさ。
たった一匹の おれにだよ。 全く あいつらときたら、なんて卑怯なやつらなんだ。
どう思う、君。 君に 裁いてもらいたいんだ。 」
ヘビは 苦しさに身を よじらせながら、とぎれとぎれに うめいた。
「 いや、わたしは そうは思わないね。 そのわけは簡単さ。
君は 君のそばに来た魚を食べるだろう。 もとはといえば 今度のことだって、君が魚を追いかけて
いて 網に かかったんじゃないか。 魚だって 食べられたくはないのさ。 同じことだよ。
網の中で 自分たちのほうが有利だと分れば、魚は 君に襲いかかってくる。 当然のことだよ。
自分の えさの なわ張りの中では、だれだって 入ってきたものを逃がしはしない。
それだけのことだよ。 」
青ガエルは ヘビを見つめ、さらに 自らを諭 ( さと ) すように つぶやいた。
「 自分に 力がある間は 他を脅かし、ひたすら かすめ取ろうとする。
けれど ひとたび自分に力が なくなれば、今度は 脅かされる運命となる。
かすめ取っては また かすめ取られ、その繰り返しの中で 生きているのだよ。 」
青ガエルが こうして事件を裁いている間にも、網の中で泳いでいた魚の群れは、毒ヘビが弱って
動けないのに気づいて、良いえさが あるとばかりに 網の目を抜け出し、水の中から ヘビのしっぽを
くわえ、川の中へ 引きずり込んでしまった。
そして おなかいっぱい その肉を食べると、また さっさと群れをなして去っていった。
水際では 青ガエルが、相変わらず その大きな まぶたを閉じて、生きているものの 宿命の悲しさを
かみしめていた。
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