ピンドーラ



 
 寺の回廊の端に、目を見開いて イスに座った姿の 木造の仏像が 置かれていることがある。


賓頭盧 ( びんずる ) さん、と呼ばれ、 除病の仏として親しまれていて、自分の病がある 同じ部分の

仏像の場所を なでれば良いという 信仰があるので、ひざの悪い人は 仏像の ひざを なでたりする。


( びんずる ) は、ブッダの弟子で ( ピンドーラ ・ バーラドヴァージャ ) という名の 実在の人物

だが、彼の仏像が 何故 お堂の室外に 安置されているのか、 というのには、こういうわけがあった。



ピンドーラ は 大臣の子で、バラモンの出身だった。   幼い頃から よく勉強して、やがて ブッダの

弟子になったが、大食漢の彼は 托鉢に出掛ける時には 必ず 大きな鉢を持ち歩いていた。

夜になると、その鉢を 寝床の横に置くのだったが、ちょっと つまづいただけでも 大きな音がするので

みんなの迷惑になっていた。

ピンドーラは考えた。 

「 袋を作って この鉢を入れておけば、音もしないし 磨り減ったりも しないのだが ・・・ 」  

しかしブッダは、ピンドーラだけに 鉢を しまう為の袋を使わせるという 特別扱いを許さなかったので

ピンドーラは いつも大きな鉢を抱えて托鉢していた。

そんな ピンドーラではあったが、ブッダの教えをよく学び 忠告に従って 暴飲暴食の癖を克服し、

ついに悟りを開いて 阿羅漢という、修行完成者となったのである。



ピンドーラが、ラージャガハに住んでいた時、ある長者が 高価な栴檀の木で鉢を作り、竹ざおを何本も

つないだ先に かごを結び付け、そのかごに鉢を入れて 高く空中にかざし、次のように触れ回らせた。

「 さあ、出家者であれ バラモンであれ、神通力を持っている者に この鉢を与えよう。

 つえや はしごを使わずに 取ってみるがよい。」


このうわさは広く知れ渡り、当事 世間に知られていた 六人の修行者たちが間もなく集まって来て

口々に叫んだ。

「 我こそは 阿羅漢であり、神通力を持てる者である。   長者よ、鉢を与えたまえ。」

そこへ 托鉢中の ピンドーラと モッガラーナが通りかかった。 

事情を知った ピンドーラは モッガラーナに向かって言った。

「 あなたは 阿羅漢であり、神通力を持っている。   さあ、あの鉢を取りなさい。」

「 いや、あなたこそ あの鉢を取るのに ふさわしい方だ。   ピンドーラよ、さあ、早くあの鉢を

 取りなさい。」

ピンドーラは 少しためらったものの、モッガラーナの言葉に従って 空高く飛び上がり、鉢を手に取ると

ラージャガハの上空を 三周したという。

長者とその家族や それを見ていた人々は 大喜びで合掌して 大勢で ピンドーラのあとを追って来た。


ブッダは この出来事を知って、ピンドーラを呼んで きつく叱り、そして この事件を きっかけにして、

「 今後、むやみに 神通力を使っては ならない。」、 という規則が 新しく加えられた。

しかし ピンドーラは 何度か、この規則をやぶったようで、ある時 ブッダに、

「 ピンドーラよ、しばらく精舎の中に入ってはならない。 外で よく考えなさい。」、 と叱られた。


こういうわけで、ピンドーラの仏像は 今でも 寺のお堂の外に安置されている。



ピンドーラが サーバッティーにいた頃、ウデーナという名の 王を怒らせて、王から危害を加えられ

ようとした時、ピンドーラは 神通力で空中に飛び上がり、王に忠告を与えて 去って行ったという。

ウデーナ王は この後、ピンドーラに教えを聞き、やがて 彼に帰依するようになった。


あるとき ウデーナ王が、「  ピンドーラ尊者よ。 私は 軍勢を使えば どの国をも 降伏させることが

 できます。 

 この王冠も 宝石をちりばめた衣服も、私だけが 身につけるものです。

 私の周りには いつも美しい女たちが仕えており、私の力は 帝釈天とも十分競えるものです。

 あなたは、この私をうらやましく思わないのですか。 」、 と聞くと、ピンドーラは、


「  うらやましくは 思いません。   私は 数多くの苦しみや 悩みから逃れる事ができたのです。 

 王よ、 健康な者が、どうして病気の者を うらやむでしょう。

 真理を知る者が、どうして 知らない者を うらやむでしょう。 

 罪のない者が、どうして 牢獄につながれた者を うらやむでしょう。 

 勇敢な者が どうして臆病な者を うらやむでしょうか。

 鳥が 猟師の網から逃れて、遠くへ飛んで行く時の気持ちが これに例えられましょう。

 このように 苦しみから逃れた状態を、解脱というのです。 」、 と 答えたという。



ピンドーラは、ブッダから、「 獅子吼 ( ししく ー 教えの力 ) 第一 」、 と賞賛され、やがて

ブッダの指示で 南インドに行き、そこで長生きして 人々を導いたと伝えられている。








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