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ソクラテス - ( 2 )
( ソクラテス の 弁明 より )
「 アテナイ人諸君よ、私は 諸君を尊重し かつ親愛する者であるが、しかし諸君に従うよりも
むしろいっそう多く、 神に従うであろう。
そうして 私の息と力の続く限り、智恵を愛求したり、諸君に忠告したり、諸君の中の いかなる人に
会っても 常に次の如く指摘しつつ、例の私の調子で話しかけたりする事を やめないであろう。
『 良き友よ、その名高き市の 民でありながら、出来得る限り 多量の蓄財や、また名聞や 栄誉の
事のみを念じて、かえって、知見や 真理や また自分の霊魂を 出来得る限り善くすることなどに
ついては、少しも気にかけず、心を用いもせぬことを、君は恥辱と思わないのか。』 と。 」
「 この事を 私は断言する。 ―― それは 神の命じたもう ところであるからである。
そうして また 私は信じている。 神に対する私の この奉仕に優るほどの幸福が、この国において
諸君に授けられたことは 未だかつてなかったことを。
けだし 私が歩き廻りながら求めるところは、若きも 老いたるも、諸君のすべてに向かって、
身体と 財宝とに対する顧慮を、霊魂の 最高可能の完成に対する それよりも先にし、
また いっそう熱心に、することがないように 勧告すること、
また、徳が 富から生ずるのではなくて、むしろ富および 人間にとっての 他の一切の善きものは、
私的生活においても 公的生活においても、徳から生ずる旨を 附言することに外ならないからである。
もし私が かくの如き言葉によって 青年を腐敗させているのならば、それはたしかに 危険というべき
であろう。
しかし 私がこれと違ったことを教えると主張する者があるならば、それはまったく 事実無根である。
して見れば、アテナイ人諸君よ、私は ただ こう言うより外はないのである。
諸君は アニュトスの言に従うもよし 従わぬもよし、また 私を放免するもよし 放免せぬもよし。
いずれにしても 私は、決して 私の行動を変えないであろう。
たとい幾度 死の運命に脅かされるにしても。 」
「 しかし もう去るべき時が来た。 ―― 私は 死ぬために、諸君は 生きながらえるために。
もっとも 我ら両者のうちの いずれが いっそう良き運命に出逢うか、
それは 神より外に 誰も知る者がない。 」
「 パイドン ( 魂の不死について ) 」 岩波文庫
第四章 「 神話 」 死後の裁きとあの世の物語 より
「 さて、こういうわけで、われわれは自分自身の魂について上機嫌で安心していなければならない。
そして、学習に関わる快楽に熱中し、魂を異質の飾りによってではなく、魂自身の飾りによって、
すなわち、節制、正義、勇気、自由、真理によって飾り、このようにして、運命が呼ぶときには
いつでも旅立つつもりで、ハデス ( 天界 ) への旅を待っている者であるかぎりは。 」
「 パイドン 第五章 終 曲 ( ソクラテス の 死 ) 」 より
ソクラテスが これらのことを語り終えると、クリトンが言いました。 「 よろしい、ソクラテス。
ところで、ここにいる人たちや 僕に なにか言いつけておくことはないかね。
お子さんたちの こととか、他になんでも。
僕たちは できるだけ君の気に入るように なんでもするつもりだが。 」
ソクラテスは、「 君たちは 君たち自身を配慮してくれれば よいのだ。
そうすれば、君たちが なにをしようと、君たちは 僕に対しても、僕の 身内の者に対しても、
君たち自身に対しても、好意ある行為を することになるだろう。
だが、もしも君たちが 自分自身を なおざりにして、正しく生きようとしないならば、
今ここで どれほど 多くのことを 熱心に約束したところで、なんの役にも立たないだろう。 」
クリトンは 言いました。 「 ところで、どんな風に 君を埋葬しようか。 」
「 どうでも 好きなように。 」 と、あの方は 微笑して言われました。
「 諸君、僕はクリトンを 説得できていないらしい。
かれは、少し後で 死体として眺められる者が 僕なのだ、と思っている。
つまり、毒を飲めば 僕はもはや 君たちのもとには留まらずに、浄福な者たちの幸福のうちへと
立ち去るのだということ、 この話はクリトンには無駄だったように思われる。
僕としては、同時に 君たちや僕自身をも 慰め 励ますつもりであったのだが。
君たちは、僕が死ねば、僕は誓って ここに留まらずに、立ち去って行くだろう、と
保証してくれたまえ。
そうすれば、クリトンは より容易に耐えるだろうし、 僕の体が焼かれたり 土の中に埋められたり
するのを見て、僕が恐ろしい目にあっているのだと思って、僕のために 嘆いたりはしないだろう。
いいかね、善きクリトンよ。 さあ、元気を出すのだ。 そして、僕の体を埋葬するのだ、と
言いたまえ。 」
こう言い終えると、あの方は 立ち上がって、沐浴するために 別室へ行きました。
注 ( ソクラテス の肖像といえば、肥満体で髭づらの 石像の写真が必ず出て来るが、
あの石像は、 ソクラテスではない事が 今では はっきりとわかっている。
教科書や テレビに出て来る 源頼朝や 足利尊氏の肖像が、氏名不詳の肖像を
『 便宜上 』、当人だとして見せているのと同じである。
犯罪者として処刑された ソクラテスの像が 当時作られるはずはなかった。)
ソクラテス - ( 2 )
( ソクラテス の 弁明 より )
「 アテナイ人諸君よ、私は 諸君を尊重し かつ親愛する者であるが、しかし諸君に従うよりも
むしろいっそう多く、 神に従うであろう。
そうして 私の息と力の続く限り、智恵を愛求したり、諸君に忠告したり、諸君の中の いかなる人に
会っても 常に次の如く指摘しつつ、例の私の調子で話しかけたりする事を やめないであろう。
『 良き友よ、その名高き市の 民でありながら、出来得る限り 多量の蓄財や、また名聞や 栄誉の
事のみを念じて、かえって、知見や 真理や また自分の霊魂を 出来得る限り善くすることなどに
ついては、少しも気にかけず、心を用いもせぬことを、君は恥辱と思わないのか。』 と。 」
「 この事を 私は断言する。 ―― それは 神の命じたもう ところであるからである。
そうして また 私は信じている。 神に対する私の この奉仕に優るほどの幸福が、この国において
諸君に授けられたことは 未だかつてなかったことを。
けだし 私が歩き廻りながら求めるところは、若きも 老いたるも、諸君のすべてに向かって、
身体と 財宝とに対する顧慮を、霊魂の 最高可能の完成に対する それよりも先にし、
また いっそう熱心に、することがないように 勧告すること、
また、徳が 富から生ずるのではなくて、むしろ富および 人間にとっての 他の一切の善きものは、
私的生活においても 公的生活においても、徳から生ずる旨を 附言することに外ならないからである。
もし私が かくの如き言葉によって 青年を腐敗させているのならば、それはたしかに 危険というべき
であろう。
しかし 私がこれと違ったことを教えると主張する者があるならば、それはまったく 事実無根である。
して見れば、アテナイ人諸君よ、私は ただ こう言うより外はないのである。
諸君は アニュトスの言に従うもよし 従わぬもよし、また 私を放免するもよし 放免せぬもよし。
いずれにしても 私は、決して 私の行動を変えないであろう。
たとい幾度 死の運命に脅かされるにしても。 」
「 しかし もう去るべき時が来た。 ―― 私は 死ぬために、諸君は 生きながらえるために。
もっとも 我ら両者のうちの いずれが いっそう良き運命に出逢うか、
それは 神より外に 誰も知る者がない。 」
「 パイドン ( 魂の不死について ) 」 岩波文庫
第四章 「 神話 」 死後の裁きとあの世の物語 より
「 さて、こういうわけで、われわれは自分自身の魂について上機嫌で安心していなければならない。
そして、学習に関わる快楽に熱中し、魂を異質の飾りによってではなく、魂自身の飾りによって、
すなわち、節制、正義、勇気、自由、真理によって飾り、このようにして、運命が呼ぶときには
いつでも旅立つつもりで、ハデス ( 天界 ) への旅を待っている者であるかぎりは。 」
「 パイドン 第五章 終 曲 ( ソクラテス の 死 ) 」 より
ソクラテスが これらのことを語り終えると、クリトンが言いました。 「 よろしい、ソクラテス。
ところで、ここにいる人たちや 僕に なにか言いつけておくことはないかね。
お子さんたちの こととか、他になんでも。
僕たちは できるだけ君の気に入るように なんでもするつもりだが。 」
ソクラテスは、「 君たちは 君たち自身を配慮してくれれば よいのだ。
そうすれば、君たちが なにをしようと、君たちは 僕に対しても、僕の 身内の者に対しても、
君たち自身に対しても、好意ある行為を することになるだろう。
だが、もしも君たちが 自分自身を なおざりにして、正しく生きようとしないならば、
今ここで どれほど 多くのことを 熱心に約束したところで、なんの役にも立たないだろう。 」
クリトンは 言いました。 「 ところで、どんな風に 君を埋葬しようか。 」
「 どうでも 好きなように。 」 と、あの方は 微笑して言われました。
「 諸君、僕はクリトンを 説得できていないらしい。
かれは、少し後で 死体として眺められる者が 僕なのだ、と思っている。
つまり、毒を飲めば 僕はもはや 君たちのもとには留まらずに、浄福な者たちの幸福のうちへと
立ち去るのだということ、 この話はクリトンには無駄だったように思われる。
僕としては、同時に 君たちや僕自身をも 慰め 励ますつもりであったのだが。
君たちは、僕が死ねば、僕は誓って ここに留まらずに、立ち去って行くだろう、と
保証してくれたまえ。
そうすれば、クリトンは より容易に耐えるだろうし、 僕の体が焼かれたり 土の中に埋められたり
するのを見て、僕が恐ろしい目にあっているのだと思って、僕のために 嘆いたりはしないだろう。
いいかね、善きクリトンよ。 さあ、元気を出すのだ。 そして、僕の体を埋葬するのだ、と
言いたまえ。 」
こう言い終えると、あの方は 立ち上がって、沐浴するために 別室へ行きました。
注 ( ソクラテス の肖像といえば、肥満体で髭づらの 石像の写真が必ず出て来るが、
あの石像は、 ソクラテスではない事が 今では はっきりとわかっている。
教科書や テレビに出て来る 源頼朝や 足利尊氏の肖像が、氏名不詳の肖像を
『 便宜上 』、当人だとして見せているのと同じである。
犯罪者として処刑された ソクラテスの像が 当時作られるはずはなかった。)