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                           アーナンダ - ( 1 )




古い インドのレリーフを見ると、初期のサンガの修行者たちは 今の僧侶のように 頭をタマゴのように

剃っていたのではなく、髪が伸びた時には 髪の先をつかんで 小刀で剃って 短くしていたらしい。

今の男性の ロングヘアーに近い。     女性の出家者 ( 尼 ) は、肩のあたりで 髪を切っていた。



しかし それでも、当時としては 充分 異様な風体だった。

東洋では 髪は命という感覚があって、男女共に 腰まで髪をのばし、男は 髷 ( まげ ) を結っていた。

バラモンたちは サンガの修行者を見て、「 髪を おとすくらいなら 死んだ方がましだ。」、と語った。



火の神 アグニ に仕えるバラモンが、祭祀が終わったあと、「 この お供えの残りを誰に上げようか。」

と思って 見渡すと、遠くの木の下で ブッダが瞑想しているのが見えた。

そこで、水を入れた瓶と お菓子を持って 近づいていった。

寒い季節だったのか、ブッダは 大衣を 頭からかぶって ダルマのように 顔だけ見せていた。

バラモンが近づいてきたのを知って、ブッダは布をはずして 頭を出した。

バラモンは、「 この人は 髪を おとしている !! 」、 と驚愕して 今来た道を もどって行った。

しかし、「 いや、髪をおとしているが、もしかすると 立派な人かもしれない。  ひとつ話しを聞いて

 みよう。」 と思って 又、ブッダに近づき、「 あなたの生まれは 何ですか ? 」 と聞いたところ、

「 生まれを問うな。 行いを問え。」、 と ブッダに言われた。

「 しかし、バラモンは、バラモンに会った時には、あなたの生まれは何ですか ? と聞くものです。」

「 私は バラモンではないし、武士でも 平民でも、奴隷でも、パーリアでも、又 その他の 何者でも

 ない。 私は 自分の道を あゆむ者である。」

そしてブッダは、「 人は生まれによって バラモンとなるのではない。 行いによって、バラモンとも、

 卑しい人ともなる。 生まれの 低い人であっても、身を慎んで 高貴な人は、バラモンなのである。」

という、当時としては 仰天の教説を説かれた。



「 人間には、生まれによる区別は 何も無い。 出身階級、人種、男女 あらゆる区別 ( 差別 ) は本来

 存在しない。 人間の間で違うのは、ただ名称のみ。」、という教えを あらゆる人々に説いていた。

これは、古代階級社会においては、支配階層にとって恐るべき教説であった。

たとえば、日本の江戸時代に徳川が 士 農 工 商 エタ 非人、という差別を勝手に作って 民衆どうしを

対立させて支配しようとしたが この時代に学者か僧侶が、「 人間は生まれながらにして平等である。」

と 説いていたら、すぐに首が飛ぶに違いない。

おまけに、ブッダは平等という観点から、「 国王 ( 支配層 ) は 民衆から財を ゆすり取るから、盗賊

 と同じである。」、と説いていたのだった。

だから 仏典には、盗賊という言葉のあとには 国王、国王という言葉のあとには 盗賊という言葉が出て

きて、国王と盗賊は 仏典の中では ワンセットになっている。



サンガ という 「 修行者の集い ( つどい ) 」 では 皆、対等平等であり、上下の区別は なかった。

信者以外の民衆の中には ブッダも 長老の一人だと思っている人々もいたという。  

そして 最初にできた規則は、先に サンガに入った者に 優先権がある、というものであった。 

―― それには、こんな出来事が あったからだった。

布教の旅で、精舎についた ブッダの一行は、疲れていたので 皆 それぞれに 部屋をとって寝た。

朝になってみると、庭園の木の下で 座っている一人の弟子がいるのに ブッダは気がついた。

それは ブッダに変わって 時々弟子たちに法を説いている、高弟の サーリプッタだった。

ブッダは、「 どうしてそこに座っているのですか ? 」、 と聞くと、 「 どの部屋も皆 先に入って

 いたので、私の部屋は もうなかったのです。」、 と サーリプッタが答えたので、これからは

先にサンガに入った者が 優先されるべきである、という事に決まったという。



ちなみに、ブッダの子供である ラーフラ は 九歳の時に出家して サンガに入ったが、ある朝 ブッダは

ラーフラが 精舎の便所で寝ているのを見つけた。 

自分の子供でも、こんなに かまわれないのだから、この先 サンガに入ってくる子供たちは どうなるか

わからない、と思われ、以後 二十歳以下の 沙弥 ( しゃみ ) には、師をつけて その教師が 責任を

もって指導し、めんどうを見るという規則ができた。



ブッダの侍者 ( じしゃ ー 秘書役 ) たちは、当初 皆 ブッダに反抗して ブッダを困らせていたので、

いつしか ブッダは 侍者を持たなくなっていた。

ナーガ サマーラ という弟子が 侍者を務めていた時の事、毎晩遅くまで 師が 外で修行しているので、

「 あの人が寝てくれないと、私も 寝られないではないか。」 と思って、脅かしたら やめるかと思い、

大衣を 頭からかぶって 物陰にかくれ、近づいて来たブッダの前に 身を躍らせて 飛び出した。

「 鬼じゃ !! 鬼じゃ !! 」 と 叫んでみたが、「 愚かもの ! 」 と その場で ブッダに叱られた。



しかしブッダが五十歳を過ぎたころ、ブッダは、「 私も年をとったので侍者がほしい。」 と言われた。

弟子の筆頭だった アッサジ が、「 それは 私がやりましょう。」 と言うが、「 あなたも 年をとった

 から、侍者を持つと良い。」、 と言われ、 そこで、アーナンダ という弟子が 侍者に選ばれた。

アーナンダ は、年の離れた ブッダのいとこで、ブッダに似て 容色が美しく 誰よりも やさしい性格で

あった。    

そののち ブッダが入滅されるまでの間、侍者として誠実に仕え、その教えを 最も多く記憶していた、

という事から、「 多聞 ( たもん ) 第一 」、 と称された。



尼僧たちから 教えを説いてほしいからと、いつも指名されて呼ばれるので、困ったアーナンダは、

頭陀 ( ずだ ) 行という、苦行 大好きなグループの仲間に、「 友よ、いっしょに行きましょう。」

とさそった。   姿すさまじい その弟子は、「 僕は 嫌だよ。 君一人で 行ったらいいじゃないか。

 それにしても、君は ずいぶんいそがしい人だなあ。」 と言って断ったが、つれて行かれてしまった。

そして尼僧の前に立ってその弟子が法を説いていると、「 アーナンダ様が、そこに座っておられるのに

 あなたが お話しをするというのは、針と糸が 逆ではありませんか。」 と、尼僧たちから 不満の声が

出た。 



ある 夏の日のこと、アーナンダが サーヴァッティの町で 托鉢を終えて帰る時、当時 不当な階級制度の

最下位と見られていた マータンガ とよばれる種族の住む地域を 通りかかった。

一人の娘が 井戸で水をくんでいたので、「 妹よ。 私は のどがかわいている。 どうか、水を飲ませ

 て下さい。」、 と アーナンダが たのむと その娘は、「 私は プラクリティ という名前の、

 マータンガの娘です。  あなたに水を差し上げるような 身分ではありません。」、 と答えた。

アーナンダは、「 妹よ。 私はブッダの弟子で、身分の区別など 考えたこともありません。 どうか、

 水を飲ませて下さい。」、 と 再びたのんだ。

アーナンダは 水をもらって礼を言ったが、プラクリティはその時、恋におちた。



それからというもの、プラクリティは 着飾って 再三アーナンダに近づいたが、彼女の思いは通じない。

そこで ある日、呪術を得意とする母親に、何とかして欲しいと頼んだ。

母親は、「 自分の術は、アーナンダのような、欲望を超越した人と、死人には通用しない。」

と言って断ったが、「 思いが かなわなければ 死んでしまう。」 と言ってプラクリティは泣き臥した。

プラクリティが どうしても言う事を聞かないので、母親は呪術をはじめた。

その術のせいで アーナンダの心は乱れたが、ブッダの法力で まもなく妖術は破られた。

がっかりした娘は 再度 母にたのんだが、「 私の妖術も ブッダの法力には かなわない。」、 と言って

母親は もう とりあわなかった。

それでも 娘はあきらめず、托鉢に出かける修行者の中に アーナンダを見つけると、「 この方は 私の

 夫です。」、 と言って どこまでもついて行った。

困り果てたアーナンダは、プラクリティを ブッダのもとに連れて行った。



ブッダは プラクリティの話を聞いたあと、「 あなたは アーナンダの 何が好きなのか ? 」、 と

問われ、「 みんなです。」、 と、娘が答えると、ブッダは、人が執着を起こす 肉体と 心 ( 自我 ) に

ついて 説かれたあと、執着とは 捕らわれの矢である 苦しみであると教えられ、人間は もともと、

ブッダとなるべき本性を持っている点で 平等であり、誰もが 道心を起こして修行を積めば 聖者に

なる事ができるという教えを説かれた。   

そして いつものように、教え、はげまし、喜ばせた。

その時、プラクリティには 真理を見る 清らかな眼 ( まなこ ) が生じたという。



プラクリティは サンガに入って修行を続け、やがて アラハンという 聖者の位に到達したと 仏典には

書き残されている。




           「 摩 鄧 女 経 」   「 ブッダとその弟子 89の物語 」 菅沼 晃 


                「 ブッダをめぐる 人々 」 里中 満智子 ( コミック ) より



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