ひな の祈り
昔、マガダ国の ある森の中で、一つのウズラの卵から、かわいい ウズラの ひなが生まれた。
卵が割れると、まるで月が昇ってくるような、丸く太った かわいい顔がでてきた。
ウズラの両親は、この月のような 丸々としたひなが、かわいくて しょうがなかった。
親ウズラは、毎日 いろいろな所から、ひなが喜びそうなえさを運んだ。
「 どう、おいしいかい 。 たくさん食べて、一日も早く 丈夫な羽や足を作っておくれ 。 」
そう言って彼等は、おいしそうに えさを食べる 我が子の様子を ながめるのだった。
そのころ、鳥たちの住んでいる森には、よく 山火事が起きた。
すっかり 乾ききった森の木々は、ふとしたこすれ合いにも ボッと火がつき、それは すごい速さで、
木から 木、枝から 枝、葉から 葉へと 燃え移り、燃え広がってしまうのだった。
月のように 丸々太ったウズラのひなは、まだ十分に 羽も生えそろわず、走ることさえ できなかった。
そんな折、恐ろしい山火事が、森の奥で起こったのだった。
「 なんだか、向こうの空が赤いわ 。 」、 母ウズラが 空をながめた。
「 どうも、煙のにおいがするな 。 」、 父ウズラも 不安そうにつぶやいていたが、そのうち、
森の木々の枝から、ざわざわと鳥たちが飛び立ち始めた。
「 どうしましょう 。 坊やは まだ飛べませんよ 。 」
「 まだ、地を走って 逃げることもできないよ 。 」
しだいに 火の気配が強くなる中で、親ウズラたちは そわそわしていたが、すぐ隣の 森のあたりで、
パチパチと 枝の燃える音がし始め、空が夕焼けのように 赤く染まっているのを見ると、
小さく かわいい子ウズラを巣に残し、あたふたと 飛び立ってしまったのだった。
ウズラの ひなは、流れてくる煙の中で、生まれて初めての火事という 恐ろしいものが、
波が寄せるように 自分のそばに近づいてくるのを知った。
「 わあ、熱い風が流れてくる 。 苦しいよ 。 煙も流れてくる 。 息が苦しい 。 助けて 。 」
ひなは 叫んだ。 しかし どうやら、森の中の 鳥という鳥は みんなどこかへ逃げてしまい、
ここで こうして じっとしているのは 自分だけのようだった。
「 どうしたらいいの 。 ぼく、まだ飛べないよ 。 ぼく、走れないよ 。 あんなに空を赤くして、
熱い風が 吹く火の中に、ぼくだけが 飲み込まれてしまう 。 ああ、どうしたらいいの 。 」
初めは やたら うろたえてみたものの、もう どうすることもできないとわかると、今度は、それでも
どうにか 助かる方法はないものかと、必死に 考えた。
「 死ぬのは いやだ 。 どうにかして、助かりたい 。 」
と、つぶやいているうちに、それは だんだん、祈りの言葉にも 近くなっていくのだった。
もう、あれこれと戸惑うこともなく、一心不乱に祈り始めた。
「 ぼくは誓います 。 昔から いらっしゃったという 仏さまのように、戒めを守り、真実に生き、
慈悲の心を 持って生きます 。 ですから どうかぼくを 助けてください 。 そして父さんも、
母さんも、それから 森のみんなも・・・ 」
自分だけのことでなく、両親や、ほかの動物たちの無事も、一生懸命に 無我夢中で祈った。
小さなひなの その姿は、他人の苦しさをも 救おうとする、尊い慈しみの心にあふれ、
耐えることによって生きることの 真の道理をわきまえる、賢い人の姿にさえ 似ているのだった。
ひなは、心を込めて唱えた。
翼があっても 飛べません
足があっても 走れません
父さん母さん おりません
どうか火よ 消えておくれ
それは、どのくらいの時間だったのか。あれほど燃え盛っていた火が、ひなのいる森の わずか手前で、
いちどきに たくさんの冷たい水を浴びたように、たちまち消えてしまったのだった。
小さなひなは 驚きと感動に打たれ、この光景に見入った。
―― なにか、偉大な力が ぼくたちを守ってくれている 。
そう思うと、ひなの胸は 感謝の念に打ち震えた。
ジャータカ マーラー。 チャリヤー ピタカ -3 -9。
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