チュッラ パンタカ




兄の マハーパンタカは 生まれつき非常に賢かった。 


祖父母に連れられて 釈尊の教えを聞きにいっているうちに 出家を思い立ち、

祖父母の許しを得て 出家した。

僧の守るべき戒めを授かり、仏の教えを聴いて 熱心に修行したので、

間もなく阿羅漢の悟りを開くことができた。


マハーパンタカは 自分が得た このうえもない楽しみを 弟にも 分けてやりたいと考えた。

そして、また祖父に願って許しを得、弟のチュッラパンタカを出家させた。

ところが、弟のチュッラパンタカは 兄とは違って たいへんな愚か者であった。

兄は次のようなうたを 弟に教えようとした。


「 身と 言葉と 心とで 悪いことを しなければ、世の生きものたちを 悩ます事がない。

 正しく念じて 欲望の対象が 空しいと知るならば、無益の苦は きっと遠ざかるにちがいない。 」                       

しかし、チュッラパンタカは 四ヶ月かかっても 暗唱することができなかったのである。

熱心に彼を教えていた 兄のマハーパンタカも、さすがに気力が尽きてしまった。

「 お前には、とても悟りを開くことはできないだろう。 あきらめてこの精舎から出て行くがいい 。」
 
兄はこう言って、弟を追い出してしまった。

チュッラパンタカが 途方に暮れて 嘆き悲しんでいると、彼の前に立つ影があった。

それは釈尊であった。

チュッラパンタカは 自分の前に立っているのが 釈尊だと気がつくと、あわてて合掌した。


「 チュッラパンタカよ、お前はこんな時間に どこへ行くのですか 。」


「 わたしは愚か者です 。      兄について短いお経の一句を習いましたが、四ヶ月かかっても

 覚えることができませんでした 。     それで、兄に精舎を追い出されてしまいました。 

 このうえは 出家をやめて家に帰り、布施などを行って 功徳を積もうと思います 。」


「 チュッラパンタカよ、お前は兄に追い出された時、なぜ その足で わたしのもとへ来なかったのです

 か 。  さあ、わたしといっしょに来るがよい 。」


釈尊は 彼を連れ帰ると、一枚の布を与えて 自分の部屋の前に座らせた。

「 お前は この布切れを持って、わたしのもとへ来る人々の 衣のほこりや 履物のどろを払いながら、
 
 ( ちりを払え、あかを取れ )、と唱えなさい 。」


それから毎日、彼はその布切れで 釈尊のもとに 教えを受けに集まって来る弟子たちの

衣や履物をぬぐった。

こうして 何年かたったある日、彼はふと考えた。

「 今 わたしが手に持っている布は、初めは きれいなものだった 。 それが いつの間にか こんなに
 
 汚れてしまった 。   人の心も この布切れと同じだ 。   

 わたしは、心の ちりや あかを取り除かなければならない 。」


これを見通した釈尊は 彼の前に立った。


「 チュッラパンタカよ、よく気がついた 。   汚れているのは この布切れだけではないのです 。
 
 心の中の ちりやあかを 取り去る事こそ 大切なのです 。」


   欲の不浄に 比べれば
 
   ちりでもあかでも 不浄と言えぬ

   不浄というは 貪欲のこと

   怒りの不浄に 比べれば

   ちりでもあかでも 不浄と言えぬ

   不浄というは 怒りのことよ
   
   暗愚の不浄に 比べれば 

   ちりでもあかでも 清いもの

   不浄というは 暗愚のことよ

   不浄を捨てて 修行者たちは 

   不浄を離れた 教えを守る


釈尊がこのように唱えた時、チュッラパンタカは 阿羅漢の悟りを 得ることができたのであった。




―― 「 仏弟子の告白 」 ( テーラ ガーター ) 岩波文庫に残る、チュッラ パンタカ の言葉。――



わたしの進歩は遅かった 。  わたしは 以前には 軽蔑されていた 。  兄は わたしを追い出した 。

 「 さあ、お前は家に帰れ ! 」、 といって。


こうして、追い出されて、わたしは僧園の通路の小屋に、がっかりして、静かに立っていた 。

―― なお 教えのあることを期待して 。


そこへ 尊き師が来られて、わたしの頭を撫でて、わたしの手をとって、僧園の中に 連れて行かれた 。

慈しみの念をもって 師はわたしに 足拭きの布を与えられた 。


―― 「 この清らかな物を ひたすらに専念して、気をつけていなさい 。 」、 といって 。


わたしは 師のことばを聞いて、教えを楽しみながら、最上の道理に 到達するために、

精神統一を 実践した。

                                     
                   
                                   チュッラ パンタカ