夢と人格 | ゴトーを待ちながら

ゴトーを待ちながら

尽きかけている命の日々に、こぼれていく言葉のいくつか。

 男は名刺を差し出した。男の名前は「中島」だった。肩書きは「心理学コンサルタント」、博士号の取得者であることが書き添えられていた。
「大学の先生じゃないの?」
「そっちは講師ですからね。いろいろな大学で講義しているし、しょっちゅう変わるから、いちいち印刷するのが面倒くさい」
「でも大学講師と書いた方が箔が付くような気がするが」
「いいんですよ。どうせ私はアカデミックな世界で生きていこうとは思っていませんから」
「そうかい・・・じゃあ、私の名刺も渡しておこう」赤城原は内ポケットに手を突っ込み、名刺を取り出した。それを男に渡した後、一瞬記憶が引き戻され、身体が固くなった。
 今日から会社の名刺を渡すべきではない、もう終わったのだから・・・そんな考えが浮かんだ。
 頭の中で、今日の重役室での会話がゆっくりと再生される。そして、大川の顔も・・・
 我に返って前を見ると、男の顔から笑いが消えていた。メガネの奥から鋭い視線を投げかけていた。中島と名乗るその男が次に口にした言葉は、衝撃的だった。
「全くの別人になってみる気はありませんか?」