そこも風景が一変していた。パチンコ屋はパチスロに衣替えして営業していたが、映画館は二つとも消えていた。一つには「グランドキャバレー」の看板がかかっていたが、営業している様子はない。
あれ、と私が声を出した。小さな事務所の看板に目が止まったのだ。
どうしたの? 妻が振り返った。
いや、この名前、珍しいだろう? 私がその看板を指さした。
ええ、なんて読むの?
私は妻に読み方を教えた。
化学部の一級上にいたんだ、そういう名前の人。その人がやっているのかなあ。
ガラス越しに事務所の中を覗いたが、誰もいない。営業している様子はあるのだが、鍵がかかったままである。
あの人が家業を継いだのかなあ。
その一家は、オヤジさんが一代で大きな財産を作った。家業はいわゆるボロ屋で、高度成長期でモノが不足していた時代に、いろいろな屑から再利用できるものを取り出したり、作り直したりしていた。
その息子は、英語のスピーチコンテストに出場するくらい優秀で、一級下の私をよく可愛がってくれた。ギターを教え、練習させてくれたのも彼だった。二人兄弟だったが、上の兄さんは、大学二年生の夏休みに帰省して近くの海で溺死した。だから、その先輩はいつも、自分がこの家を継がなきゃならないのかなあ、嫌だなあ、と言っていた。外国で生活したいんだ、とも。その後、東京の有名な大学に進学したと噂で聞いたが、この町に戻ってきたかどうかは知らない。
やはり家業を継いじゃったのかなあ。
そう呟きながら、私は、何度もその事務所を振り返った。