精神疾患患者なので、
いわゆる「木の芽時」は、心がざわめいて仕方がない。
体調もすぐに崩す。

ゆっくり猫と生きて行けばいいのに、
わたしは相変わらず自分を追い込むように制作をしている。
やり始めたら止めることはできない。
一種の発達障害で、「途中でやめる」ということが、苦手なのだ。
それゆえ根を詰めて、息も吸わず瞬きもせず、細かい作業に没頭する。

出来上がったら、撮影して掲載せねば売れて行かない。
掲載してコマーシャルするまでが一連の作業であり、
そのあとは発送が待っている。
もちろん発送は楽しい。

うにくんは、要求が多くて文句が多いけれど、
わたしは新しい技を手に入れた。初めて持った技だ。
「スルーする。」

わあわあ鳴いていても、やれることは一通りやって、
膝に乗せてラブラブもして、

それでもわあわあ言うなら、放置する。
二時間もすれば、諦めてドームで寝てしまう。
そのすきにわたしは仕事をする。

買い物に出かけて、帰って来ると、リビングの引き戸のガラスのところに、
お出迎えに来てくれる。
ああ、マチも病気になるまではよくこうして待っててくれたな。
可愛い声で鳴いていたな。

マチ…。

わたしはマチのことを、息子と同じくらい愛していた。
世界で最も大切なのは息子だけれども、
幸い結婚出来て、子供が生まれれば、もうお嫁ちゃんの旦那さんで、
お孫ちゃんの父親で、
存在が遠くなる。

マチがわたしに最も近い存在だった。
愛おしくて可愛くて大好きだった。
「食べてしまいたいくらい好き」って、このことだと思った。

抱き上げると体は柔らかでフワフワしており、
首筋からはキャラメルポップコーンの匂いがして、
肉球はとんがりコーンの匂いで、
暖かくて、しっとりしていて、これが天使だと言わずに何が天使だろう、
と、毎日思っていた。

お鼻を舐めるとしょっぱかった。
薄い唇はピンクの真珠のようにつややかで、
小さい小さい前歯がずらっと揃っていて、
何に使うのそのちいちゃい歯は~と良く触った。

あくびに指を突っ込んでも絶対に噛まないし、
耳をはむはむしても怒らないし、
本当に、本当に、可愛くて愛おしかった。

うにくんは、正直、客観的に、非常に可愛い。
可愛い子である。

けれど、マチに抱いていた圧倒的な愛おしさは、
もう多分わたしには残っていないのだ。
燃え尽きたのだ。

うにくんはマチの代わりではない。
新たにこの子と生きて行く選択をした。
旅行にも行かない、映画館に行けなくてもいい、
部屋で引きこもって仕事をしながらこの子と生きる。

だけれども、マチのあの圧倒的な愛おしさの前では、
どんなにうにくんが可愛くていい子でも、
わたしは、子ではなく孫を眺めるような感覚でしかない。
そんな距離感だからこそ、スルーもできるのだろう。

マチは娘であり、わたしのママでもあり、同士だった。
天使だった。
光だった。
支えだった。

その思いで胸が苦しくなる。
今の時期はダメだ…。どうにも自分を平静に保てない。

うにくんはマチの使っていたベッドもキャットタワーも嫌がらずに使ってくれている。
多頭飼育現場からもらい受けたのでそこは良かった。

うにくんはうにくん。
マチはマチ。

でも、どうしたって若くして死なせてしまった子が可愛いに決まっている。
これはそういうものなのだ。
人の心ってそうなのだ。
死んでしまったら「特進」してしまうのだ。

うにくんには申し訳ないけれど、わたしにはマチが最上級の天使。
それを超えるものは何もない。
もう会えない。二度と会えない。
触れない。声も聞けない。
もっと抱きしめたかった。
肺炎だったから苦しいと思って最後抱きしめられなかった。
焼いてしまう前に硬くなった冷たい体を、
しっかり抱きしめれば良かった!

マチ、マチ、会いたい。
会いたいよ。
愛してるよマチ。ママの天使ちゃん、ママの宝物ちゃん。
ずっと一緒だよって約束したのにこんな早く死んじゃって、
ママはマチを死なせたと思うから苦しいよ…。

在りし日のマチ


東窓で陽に当たっている。

うにくん。



違う猫なのに。
わかっているのに。
ドキッとしてしまう…。
マチ…

マチが後釜に探してきてくれた子だから、大切にするよ。
もちろん一杯可愛がる。
なるべく一緒に過ごすよ。

でもマチ、ママを見ていて欲しいの。
ママを忘れないでいて欲しいの。
そして約束して?
来世でまた会おうって。


リンパ腫が発覚した時の、死にそうに具合が悪いマチ。
これはわたしの永遠のアイコン。
マチの命を預かっている自分を戒めるために待ち受けにしてた。
一生この写真を待ち受けにしておく。

可愛いマチ…美しい瞳。