あれは20年前に、グアムとサイパン島へ行った時の事です。
空港へ降り立った時から、何かにまとわりつかれた様な、抱きつかれた様な、気だるさを感じていました。
「わ………よ」とか 「どこ……」など、声になっていない声が耳につき、とても旅行を楽しめる状況ではありませんでした。
各地を周りましたが、常に私の後ろに何者かの気配を感じており、「バンザイ○○」では叫び声を聞き、旧日本軍の戦車がある所では頭痛で動けなくなりました。
妻は何も感じない様で、明日は帰国という前夜、ついに私の枕元へ現れたのです。
割れたヘルメットに破れて血のついた軍服、脚絆(きゃはん)を巻いた足元は裸足でした。
「我が国の戦況を報告せよ」
「貴様、故郷はどこだ」
と、頭の中に聞いてきます。
「戦争は終わってます」
「日本は負けたのです」
と、念じました。
それが届いたのかわかりませんが、姿が消えふっと身体が軽くなりました。
汗だらけで、部屋のドアの前で立っている私を見て、妻が言いました。
敬礼をし、気を付けの姿勢のまま、ブツブツ言っていたそうです。
そして、帽子を被っていた私の額には、何故か鉢巻きをしていた様な日焼けの跡が残りました。
あの島へ行った時、私も日本兵になったのでしょうか。
亡くなられた方々の冥福をお祈りします。