祖父がまだ幼い頃の話です。
私の地元のK線にある松○病院は、昔は戦争で気がおかしくなった日本兵がたくさん入院させられた精神病院として有名です。
その病院の目の前にはK線が通っていて、頭が変になってしまった患者が、訳も分からず電車に飛び込む事故がたくさんあったそうです。
そして幼い頃の祖父は、その瞬間を見てしまったんです。
その日祖父は、線路近くにある駐車場で友人達と遊んでいました。
すると突然、「どんっっっ」という鈍い音が聞こえました。
線路のすぐそばに家があるため、飛び込み自殺の独特の音には慣れている祖父と友人は、「いまの、飛び込んだよな・・」「だな・・」と話し合って、1人が「おい、見に行こうぜ」と言って走って行きました。
祖父は気が乗らないものの、腰抜けと思われるのが嫌で付いて行ったそうです。
駅より少し離れた場所に下半身は落ちたらしく、駅員さんが肉片を拾っているのを見て、祖父は吐き気を抑えていたらしいです。
しかし駅員さん達が「おーい、仏さんの上あったかい?」という一言を聞いて、祖父以外の友人達は、「おい、俺たちが上半身探そうぜ!!」と、面白半分で線路を砂利道沿いに辿って探し始めました。
しかしその時、祖父はすでに上半身を見つけていたらしいんです。
その上半身は、自分がまだ死んでいることに気づかないまま、線路の近くの鉄塔を、まるで興奮した蜘蛛のように笑いながらよじ登っていたんです。
祖父が真っ青になりながらその上半身を一点に見つめているのを駅員さんが気付き、その駅員は「おーい、鉄塔鉄塔!松○病院の患者だなぁ。警察と病院に連絡してー」と、怖いくらいに冷静だったそうです。
祖父はしばらく上半身から目が離せないままだったそうですが、その上半身は、長い間ずっと両腕をガサガサと昆虫のように動かして、口からは泡を吹きながら、ゲハゲハと笑っていたそうです。