10数年前のお話です。
当時会社勤めをしていた私は、仲の良い同僚と会社帰りに喫茶店へ寄ろうと、駅の駐車場に車を止め、徒歩でいつもの喫茶店へ向かっていました。
2人で行くのは2回目で、そこの喫茶店はオムライスが格別に上手く、私は週2回程度通っていたんです。
しかし、その日は予想外にも定休日で、仕方無く別のお店へ行く事にしたんです。
しばらく二人で歩いていると、右の寿司屋と小物店の間に、見た事の無い道がある事に気付き、
『あれ？こんな所に道なんてあったけ？』
と、同僚に聞くと、同僚も
『見た事ないよこんな道。昨日この小物店に行ったんだけど、こんな道無かったはずだよ。あったら気が付いてるし。』
と、言うのです。
勿論、私も良くこの道は通っていたので、道があったなら気が付かないはずは無いのですが･･･
ちょっと不気味な感じもしましたが、道の先に何があるのか気になり、おそるおそるその道に入ることにしました。
すると、しばらく進むと行き止まりでした。
ただし、右に小さなコジャレた喫茶店が1件だけ佇んでいました。
店の後ろはコンクリートの壁、建て物は真っ白なログハウスで【営業中】の看板が立ててありました。
そして、コーヒーのいい香りが漂って来たので、私達は安心し店に入ることにしました。
店に入ると、一人の紳士っぽい中年の男性がお皿を拭いていて、私達に、
『いらっしゃいませ。』
と言うと、
『こちらの席へどうぞ。』
とカウンター席に案内されました。
周りを見ると他の客は誰も居なく、私達2人だけでした。
店内にはクラシックの音楽が流れていて、心地よく、溜まったストレスがスッと抜けるかのような感覚でした。
ボケっとしていると、店の男性が、
『お客様、何になさいますか？』
と尋ねて来たので、同僚と顔を見合わせ、
『オムライス、出来ますか？』
と聞いてみました。
男性は、
『はい。かしこまりました。』
と奥のキッチンに移動し、10分程経った頃、
『お待たせいたしました。』
と、2つのオムライスを運んできました。
見た感じは普通のオムライスでしたが、何とも言葉が出ない程、美味しいかったんです。
こんな美味しいオムライスを食べたのは初めてだったので、嬉しい気分になったんです。
店の男性に、
『こんな美味しいオムライスを食べたのは初めてです。』
と言うと、男性は、
『それはそれは、ありがとうございます。』
とニッコリ微笑んだのを、覚えてます。
しかも、初めて来るお客にはコーヒーも無料と言う事で、1杯頂きました。
帰り際、料金を支払うと、同僚が店の男性に、
『美味しいかったです。また来ますね。』
と挨拶をすると、男性はニッコリ微笑んでお辞儀をしていました。
店を後にし同僚が、
『来週、また来ようよ。』
と言って来たので、勿論誘いを受けました。
1週間後、私達はまたあの店に行こうと、会社帰りにあの道があった場所まで行きました。
ところが、寿司屋と小物店の間には、道なんか何処にも無いんです。
私達は何度も何度も確認しましたが、何処にも道なんて有りません。
私達は、唖然として暫く立ってました。
暫くして、いつもの喫茶店に入り、店のママさんに聞いてみたんです。
でも、寿司屋と小物店の間に道なんかある訳が無いと反対に笑われました。
あの時私たちが行ったお店は本当にこの世のものだったのでしょうか？
私たちは何ともなく無事に帰ってこれましたが、ひょっとすると･･･
このような体験は、それ以降ありません。