川原町三条の 「リンデン」 に行くと、


君 は 待っている。


「待った?」


「ずっと。」



数少ない洋服の中から、君に見せたいそれを 選ぶ には、時間が 必要。


とりとめの無い話は、忘れる。


君が、座っている ことは、くっきり と。


だれでも、髪が長いのだ、74年 の 夏。




「おまえが 来る と いい匂い。」


あたりまえよ、Dior つけてる、あのときも、   今も ね。




北白川の下宿は、小さくて、その前を、大家のオバサン が、箒で、せわしく 掃いている。


コルトレーンのLPレコードを持って、上がっていこうとすると、



「あーー、ダメダメ、 女の子は、禁止やっ 。」



ドアを開けて、君は 怒る。


「時間とおりに、来ない から。」



仕方ないから、大きなレコードかかえて、


バスに乗って、鴨川 へ。


なんにも、すること ないね。


すること無くて、それは、幸せ なこと だとは、あとで、気付くこと。


鴨川は、たっぷり、水を、たゆたえて、 どこへ、流れていくのか、


そんなこと、考えもしなかった。




「学祭で、 りりィ を呼ぶ。 僕が、呼ぶ。  だから、西部講堂まで、見に来て よ。」


一人で、出掛けた講堂で、君は、せわしく動き回り、忙しそうだった。


私は、ここ に 居る。


りりィ が 「私は、泣いてます。」


って、歌うと、 りりィ は、スター で、光っていたけど、


まぶしいのは、君。




夏休みになると、君は、田舎に帰省する。


何日も会えないから、君 は 私に声を 届ける。


へたくそなギターと、へたくそな 拓郎や陽水 を たっぷり カセットテープに 詰めて。


途中で、おなら が 入って た。 裸んぼう で、 歌っているのが、見えた。


けれど、 私 は 拓郎も、陽水も、ましてや、高田渡 は、知らなかった。


あまり、好きでもなかった 。


そんなことも、知らなかった の ?




お茶を飲むつもりで、入った 朝日ビルの、「リヨン」


そうしたら、立派なフランス料理店だ ということに、気付いた ときは、遅く。


「ワインは、何に なさいますか?」


「メイン は?」


たくさんのナイフとフォークに圧迫されながら、


フランス語で書かれたメニューで、読めたのが、


オニオングラタンスープ。


「これ」


って言ったけど、それが、何か も知らなかった 18歳。


お支払いが、6000円。


それは、君が帰郷するための費用だったので、


結局、君 は 京都 に 残った。 オニオングラタンスープ の おかげ。




鴨川縁は、夕刻とともに、恋人たち が 間隔をあけて、座り続ける。


何分も、何十分も、何時間 も。


何もすることが、無い 幸せ。



川は、いくつもの幸せ を 横目で見ながら、さらさら と どこかへ 流れて 行く。


君の顔が、黒い陰影になるまで、座る。


肩を 触る。 指に 触れる。 そして、 笑う。


そうやって、いくつもの夜を 越えて きた。




いま、


リンデンで、君は、待って いない。


北白川 にも 居ない。


私は、西部講堂が残っているのかも、知らない。




鴨川は、今も、流れ続けている。



君が、座った石畳は、まだ、 あたたかい。






  * とても、若かったころの、君と私。

  

    8月初め、 君は、川を渡って、手の届かないところへ、行ってしまった。


    思い出は、重く、


    そして、


    君は、  



    ずるい。