波の間にまに
ふたつの影が
波の間にまに
月に照らされ
波の間にまに
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「ちょっと、ユノ聞いてよ~シアがさ、オレがクロカンブッシュ作ろうと思って、いっぱい焼いたシューをほとんど食べちゃったんだよ。しかも、1個しか食べてないとか言うの!嘘つくなんてひどいよね。オレとユノのウエディングケーキなのに!絶対許してあげないんだから」
ドスドスと足を踏み鳴らし部屋に入ってきたジェジュンは、怒りを顕にソファで寛ぐユノの隣りにボスンっと座った。
その衝撃のせいか、心の動揺のせいか、ユノの手から小さなシュークリームがポトリと落ちて転がった。
それはまさに、今ジェジュンが言っていたクロカンブッシュの為のシューに違いなかった。
「え?ユノ…これ」
ギギギっと音が聞こえそうなくらいに首を軋ませながら、ユノは怖々ジェジュンの方を向いた。
「ジェ、ジェジュン、ご、ご、ご、ごめん。ケ、ケ、ケーキ作るのは聞いてたけど、このシュークリームはオヤツなのかなって…思って」
ユノはキュッと目を瞑って、顔の前で手を合わせた。
「おいし…かった?」
「う、うん、すごく美味しいよ」
ユノはコクコク、コクコク首を縦にふった。
「止まんないくらいに?」
「うんうん、やめられない止まらないって感じ」
首で発電出来そうなくらいに頷いた。
「おっれ、天才?」
「もちろん!ジェジュン天才、世界一、宇宙一、美人、大好き、愛してる、抱きしめたい、キスしたい、すぐしたい」
プクっと膨らんでいたジェジュンの頬がどんどん緩んで、すっかり笑顔になった。
「もう、ゆのったら~じゃあ、すぐキスして、そしたら許してあげるね」
「うんうん、ジェジュンは可愛くて優しいなぁ。ほら、おいで」
ユノは大きく腕を広げ、ジェジュンはその胸に飛び込むと、目を瞑り顔を上げた。
ちゅっちゅと啄む様なキスをして微笑み合う2人
そんな仲睦まじいバカップルのすぐ横のソファには、シムとギガ先輩が座っていた。
今日、ささやかながらも結婚式をあげようと集まっていたのだ。
「あの人、さっきから20個は食べてましたよ。それを許すんですか?1個しか食べてない兄は許さないのに?はっ?!まったく見てられませんね。バカらしい。ギガ先輩、今日はもうやめて帰りますか?」
「まぁまぁ、仲良しで何よりでしょ。怒られたシア君は可哀想だけどね。それにケーキは別に頼んでるから大丈夫なんでしょ」
「ええ、もうすぐ着くはずです。はぁ、もう疲れました。この人達の近くにいると、英気を吸い取られてスルメになりそうですよ」
「スルメか、炙ったら美味しそうだね。
じゃあ、準備が済むまで前祝いにワインでもどう?取って置きのを持って来てるよ。一緒にテラスにでも行きますか?」
ギガ先輩は足元に置いていた紙袋に手を伸ばすと、ボトルを掴んでチラッとシムに見せた。
「さすが先輩!干からびる前に逃げましょう!怒られてヘコんでるだろうから、兄も呼んできますね」
先輩の素敵な誘いに、シムは満面の笑みでサムズアップした。
海に突き出た岩の端っこ
足元に波が打ち寄せるこの場所が、2人が選んだチャペル
波間にはジェジュンの姉達や両親が顔を出し、たくさんの鮮やかな魚や海ガメ達が、2人をお祝いしようと集まっていた。
ユノにはまだ見分けがつかなかったが、ジェジュンが嬉しそうに手を振ったのが、アオさんだったのだろう。
砂浜からはシアシム兄弟、ギガ夫妻、貝売りのおばちゃんが見守っていた。
海をバックに向かい合う2人は、どちらも全身白いタキシード姿だ。
真っ青な海に真っ白な2人は、眩しい程に輝いていた。
そして、2人の前に立つ神父役は飴屋の店主
今日のウエディングケーキも、飴細工をふんだんに飾り店主が用意してくれた。
背中しか見えないが、初めての大役にかなり緊張しているようだ。
ざざ~ん、ざざ~ん
寄せては返す穏やかな波音をBGMに、式は粛々と進んでいった。
まずは誓いの言葉
「はい、誓います」
そう宣言する瞳は涙で潤んでいた。
次に指輪の交換
互いに着け終わると、2人は結婚会見かの様に、見守る人達に手を披露した。
そして最後に誓いのキス
少しだけ背の高いユノは、優しくジェジュンの顎を支え口付けをした。
そして、最後に誓いのキス
ジェジュンはユノの胸に手を添え、ちょっとだけ背伸びをしてキスに応えた。
そして、そして、最後に誓いのキス
ユノはジェジュンの腰に手を回すと、グイッと身体を引き寄せた。
そして、そして、そして、最後に誓いのキス…そして、そして、そして、そして…
キス長すぎ…と皆が呆れ始めた頃、突如アオさんが行動に出た。
海からニョキっと首を伸ばすと、ジェジュンのズボンの裾を咥えて引っ張ったのだ。
わわっとバランスを崩した2人は、抱き合いながらざぶ~んと派手に海へ落っこちた。
突然の出来事にオロオロする店主
大喜びで爆笑する砂浜の男3人
やがて、アオさんの背につかまり水面に顔を出した2人は、互いのびしょ濡れの髪をかきあげた。
そして、自分達を囲むように泳ぐ家族の笑顔と、たくさんの海の仲間達の祝福に包まれ、うれしい泣き笑いで顔をくしゃくしゃにしましたとさ。。。めでたし、めでたし
南の島の月の夜
ボートに乗るは1人の男
じっと海底(うみぞこ)覗いたら
ぷくぷく泡と浮いてくる
見目麗しき海の人
彼はプルンと雫を散らし
ボートのヘリに手をかけた
珊瑚のごとき唇と
琥珀の瞳を煌めかせ
愛しき男に手を伸ばし
少し塩っぱいキスをした
波の間にまに
二人の影が
波の間にまに
月に照らされ
波の間にまに
触れて離れて
波の間にまに
優しくゆれた
Fin