リナちゃんと、話してると不思議な感覚にとらわれる。

天性の物なのか?

培われた物なのか?

彼女の言葉は、人を魅了する。

強いて言うなら、言葉に魂が宿ってるかのように。

「言霊」

この、言葉が適切な表現だろう。

彼女の周りに人が寄る訳だ。

調理場の方からチーママが、小走りにきた。

僕の前に来ると、お盆に乗せてきたカレーライスをテーブルに置く。

「お待ちどうさま。」

野菜と肉が「ゴロゴロ」と主張するカレーライスは、温かな湯気と薫りを周りに漂わせる。

リナちゃんが

「美味しそうだね。」

僕は

「うん。」と、言って。

スプーンを取って、カレーライスをすくおうとすると。

カレーライスと、僕の間に割り込み、目と鼻の先に顔を寄せ。

「美味しそうだね。」と、ニコリ。

リナちゃんの息を感じられる近さに「ドキ⁉︎」

「リナちゃん、ち近いよ。」

リナちゃんは、目をパチクリさせて。

「リナも食べたいなぁ~」

「とにかく、リナちゃん近過ぎ…席に戻って。」

「はぁーい」と、言って。

席に着くかと思いきや、厨房に小走りに入っていった。

と、思うのも束の間。

隣の席に、スプーンを持ってチョコンと座るリナちゃん。

おもむろに、スプーンの手を伸ばしカレーライスをすくおうとするから、

「リナちゃん、間接キスになるよ。チーママにリナちゃんの分、頼んであげるよ。」

寂しそうな顔で。

「リナとの間接キス嫌ですか?」

「そうじゃなくて、リナちゃんに嫌な思いさせるかなって、」

リナちゃんは、僕の顔を凝視して。

「カズさん、頬っぺたにご飯粒ついてるよ。

取ってあげるから動かないでね。」

リナちゃんが、近づいてくる。

リナちゃんの顔が異常に近いのに気づき。

「リナちゃん、顔ちか…」

言葉が、止められた。

リナちゃんの唇で。

頭は真っ白。

リナちゃんは、アッケラカンとして。

「カズさんの唇奪ったから、間接キスなんて気にならないよね。いただきまーす。」

リナちゃんは、カレーライスを口に入れ。

「美味しい。カズ君も食べて…」

カレーライスを二人でつつきあってると、リナちゃんがぼそりと、

「カズ君…」

僕は、「何?」と、返事をすると。

「なんでもない…」と、一言。

リナちゃんのスプーンが止まる。

「どうした?」

リナちゃんは、僕の目を見て。

「今日、泊めてくれないかな…」

僕の返事は、不思議と自然に、

「いいよ。」と…

屈託の無い彼女の笑顔。

お客は、この笑顔に癒しを感じ彼女を慕って酒を交わしに来るのだろう。

「リナちゃんだっけ、何か香水つけてる?」

「え⁉︎何か匂います。何もつけてないのになぁ。もしかして、変な匂いですか?」

「いいや、そんな事ないよ。なんて言うか、ほのかに甘い香りがするんだけど。言われない?」

「初めて言われました。」

そう言うと、リナちゃんは服の裾を嗅いで。

「そうかな?」

と、言って僕の方を見るなり。

「あ⁉︎佐藤さん、私の気を引こうとして言ったんじゃないですか?」

「本当だって、誰かに言われた事ない?」

「無いですよ。」

「そっか…俺の気のせいなのかな?」

そう、言いつつも。

その香りは、僕の鼻先をくすぐり続けていた。

「何処かで嗅いだんだよなこの香り?」

リナちゃんは、僕の言葉を聞いたのか?聞かなかったのか?

空いたグラスを見るなり。

「佐藤さん、グラス空いてますけど?ボトル出しますか?」

「そうだね。」

そう言うと、リナちゃんはカウンターに入り迷う事無くボトルを取ると。

「これで良いんですよね?」

と、訪ねてきた。

僕は「うん。」と、一言返答した。

リナちゃんは、手早くボトル、氷、水、グラスを用意すると、僕の隣にチョコんと座り。

「始めは、薄目でよかったですよね。」

僕はうなずいた。

「リナちゃん、よく知ってるね?」

「常連さんの事はね。」

話しながらも、リナちゃんは水割りを作り差し出した。