あらすじ

 

小さなどら焼き屋「どら春」を営む千太郎の元にある日、徳江が訪れる。雇ってくれるようにお願いするが、千太郎に断られる。数時間後にまた訪れ、自作のつぶ餡を作って無理矢理おいていく、千太郎は怪しみつつも、一口食べ、感動する。

 

後日、徳江に餡作りを教えてもらうが、丁寧な徳江の作り方に億劫になりつつ、完成した餡を食べたときに、どら焼きのおいしさを知る。

 

徳江の餡のおかげで、行列ができるほどの繁盛ぶりだが、「徳江が、らい(ハンセン病)である」という噂が流れ始める。

とたんに客足が途絶え、德江は辞職した。

 

数日後に、どら春の常連客の中学生わかなに誘われ、德江の住む、ハンセン病患者の療養所を訪ねる。

 

その後、店のオーナーの意向で、甥と共同経営するようにいわれ、店にいかず、療養所の前でうなだれているところに、わかなに中に入ろうと促される。

 

しかし、德江はすでに亡くなっていた。德江の残したレコーダー、餡作り道具を受け取る。

 

 

 

考察

・千太郎は德江がハンセン病であることを、雇用前から知っていた

オーナーに德江がハンセン病であることを告げられたとき、千太郎は驚くというより、あせっていた。德江さんの病気は治ったともいっていた。

客前にあまり出ていなかった德江のことを見るとしたら、千太郎しかいなくなる。

そして、わかなはお母さんに德江のことを話したといっていたので、噂の出所はわかなの母で間違いないが、わかなが德江と話したのは、噂が出回るより後なので、わかな自身できづくことはできない。とすると、千太郎がわかなと居酒屋で出会ったときに話したのだろう。

 

それを知った上で雇ったのに、わかなに話しすぎたこと、客にばれてしまった時の対処を考えていなかったことを悔やみ、「守れなかった」と千太郎はいったのでは?

 

 

 

感想

・長瀬正敏さんの涙をこらえるシーンが素晴らしい

德江さんに感謝の言葉を告げられ、涙を流す千太郎。

德江さんを利用したことを謝ろう、自分のことを恨んでいるのでは、と考え、德江さんとの別れを曖昧にしていた千太郎は思いがけず、感謝の言葉をかけられ、全ての言葉を飲み込んで、德江さんの優しさに包まれた。

不器用だが、細やかな気遣いができ、中学生とも打ち解けているが、どこか壁を作ってしまっていた千太郎の心に気づき、千太郎を支えていた德江。

 

二人の演技の自然さから、思わず涙が流れた。

 

 

・ストーリーに無駄がない

メインストーリーのみ取り上げていたため、わかりやすく、テンポよく進んでいた。

そのため、他の人物の成り立ちが少し曖昧になっていたため、考えてみると不自然なところがいくつかある。

わかなが信用していない母に德江さんのことを話したこと、母がそんな情報をみんなに話すこと、陽平の登場意味など。

 

 

・療養所内の様子

わかなと千太郎が初めて訪れるとき、「鼻がもげてる人がいるのかな」と心配していたわかな。しかし、入ってみると、ごく普通の元気なお年寄り方が、輪になって談笑していた。

德江さんもそうだが、見た目に大きな異常はない方々が隔離されていることに心が痛んだ。

外で生活できず、子供も作れず、思い出の品も全て処分される。元患者というだけで、感染することなど無いのに、人は差別の対象を必ず作ってしまう。

資料、テレビの情報を丸呑みにして、イメージを膨らませるのは危険だと感じた。