暗闇の中から起き出したリョーは、何が何だかわからないまま周りを見回した。
そこには、汚い顔をさらに汚くしたヤマモトが号泣していた。
ヤマモト「よかったぁ、ほんとに生き返ったよ」
教会の中でのヤマモトの号泣が目立ちすぎるため、カイゾーとリョーは頭を下げながら
ヤマモトを引っ張り、教会の外へ出た。
教会の外のベンチに3人は座った。
カイゾーとリョーは、自分たちがモンスターに瞬殺されたことを思い出し、
これからのことに絶望を感じていた。
そんなことをよそに、さっきまで号泣していたヤマモトは、アゴ割れを治すのに100万ゴールドが高すぎることを力説している。
リョー「これからどうしよう…」
カイゾー「なっ…」
ヤマモトは大きな目を一段とギョロつかせて、沈んでる2人に力強い言葉を続けた。
ヤマモト「こんなことで諦めるの。最初から最弱ってわかってたやん。強くなればいいじゃん。」
それでも2人は、自分たちが思ったよりも弱すぎることに自信をなくしていた。
ヤマモト「とりあえず、今日は復活したことだし、飲みに行って明日考えよう」
陽が暮れはじめた。
3人は飲み屋に入り、空腹を満たす。
ヤマモトは、2人の復活がよほど嬉しかったのか、ただ酒が飲みたいだけなのか、
浴びるほど酒を呑み、泥酔状態だ。
反対にカイゾーとリョーは酔えなかった。
カイゾーとリョーは、酔いつぶれたヤマモトを両脇から支え、宿屋へとなだれ込んだ。
ヤマモトはベッドの上で大きないびきをかいて、眠っている。
カイゾーは静かに、宿屋を出た。
リョーも、心配そうな顔でカイゾーの後に続いた。
ヤマモトの気持ちよさそうないびきは、途切れることなく続いている。
月が綺麗な夜。
カイゾーは、その月を見ながら、宿屋の外にある椅子に座っていた。
その隣の椅子にリョーも静かに座る。
リョーもカイゾーにならうように、月を見上げた。
カイゾー「オレ、弱いなぁ。思ったよりも全然弱い」
月明かりの下に、カイゾーのキモい声だけが響く。
リョー「ボクも、同じだんよ」
月明かりの下に、リョーの噛んだ声だけが響く。
カイゾー「どうする、これから?」
リョー「どうしたら、いいんだろうね」
もどかしい沈黙が続く。
リョー「魔王って、どのくらい強いんだろうね?」
カイゾー「うーん、見当もつかんね」
リョー「ボクらがやられたモンスターって、下っ端だよね。
それ考えたら、恐ろしい強さだよね」
カイゾー「例えていうと…、井村屋における肉まんって感じなのかな、魔王は」
リョー「・・・(例え下手なのかな)」
2人は、それ以上何を話せばいいか分からないまま、月を見上げていた。
どのくらい、そうしていただろうか。
誰かが近づいてくる気配を、2人は感じた。
足音が大きくなり、目を凝らしてみると、見覚えのあるヒゲもじゃの顔が見えた。
ヤマモト「こんなとこにいたの。起きたら誰もいないから、焦っちゃったよ~」
カイゾーとリョーの少し後ろにある椅子にヤマモトも座った。
どーーん!
大きな音にびっくりしたカイゾーとリョー。
後ろの方に目をやると、月明かりの下、椅子の座る部分が壊れ、おしりを地面につけて椅子にはまった格好になったヤマモトがほんのり見える。
カイゾーは広い肩幅をゆらし、リョーはこぼれ落ちそうな目をつむり、爆笑した。
ヤマモト「爆笑してないで、助けろよ~」
椅子にはまったヤマモトが訴える。
2人は笑いながら、ヤマモトを助ける。
ヤマモト「まだ笑えるじゃん。世界が魔王に支配されたら、きっとこんなに笑えないよ」
ヤマモトは良いことをいった時だけに見せる得意満面のドヤ顔を2人に見せる。
2人は全く見ていなかった。
カイゾー「そうかもなぁ…」
リョーはいつになく真剣な顔になっていた。
3人は誰が何を言うでもなく、宿屋の部屋へと戻っていった。
強烈な朝日でヤマモトは目を覚ました。
宿屋の部屋の日当たりが良すぎることに、ちょっと腹を立てながら。
部屋の入口に一番近いベッドに寝ていたヤマモトは、眠い目で隣のベッドを見た。
誰も寝ていない。
その奥のベッドも、空だった。
ヤマモト「えーーーっ」
カイゾーとリョーが寝ているはずのベッドは、空になっていた。
