私が小学2年生の頃に出会い、それからずっと愛読している本。

 

 センター試験に出題されたことでも有名な『デューク』から始まる、全21編の短編集。

 

 その中からひとつ紹介したい。

 

 

 

『冬の日、防衛庁にて』

 

 本妻と浮気相手の女が対峙する話。

 

 この作品は私にとって一番思い出深いのだ。

 

 

 人が人を測るものさしは沢山ある中で、この話では「選ぶ料理」が基準になっていた。

 

 コースのメインに「ミラノ風カツレツ」を選ぶ女は「ダサい女」。

 

 しかし「本妻」はそれを美味しそうに頬張り、最後まで食事を堪能すると颯爽と去る。

 

 

 

 私はその姿に憧れ、20歳になってすぐ1人で洋食屋へ行き、ミラノ風カツレツを食べた。

 

 もちろん美味しかったけれど、想像していた通りの味で「あっけないな」という感想が真っ先に浮かんだ。

 

 しかし他も入り交ざった感情は鮮烈で、忘れられない。

 

 今でも上手く言葉にできないが強いて言うなら、生きていくことに気負う必要がないと分かって安堵したのかもしれない。

 

 

 あの「あっけなさ」は、私をとても生きやすくしてくれた。