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弔辞
安倍先生、今日はどういう言葉を申し上げればよいのか、
何も見つけられないまま、この日を迎えてしまいました。
参院選の街頭演説の最中（さなか）に凶弾に倒れた。
いくら何でもそれはなかろう。この事態は私にとって、
到底受け入れられるものではありませんでした。
そしてまた、多くの国民もやり場の無い怒りや悲しみに
くれております。
誰もが、どうお悔やみを申し上げればよいのか、
その言葉すら知りません。
唯々（ただただ）ご冥福をお祈りするばかりであります。
振り返りますと、先生と私は随分長い時間お付き合い
をさせて頂いたことになります。
時に官房副長官と政調会長、時に総理と幹事長、
時に総理と副総理として、先生とは政策または政局において
様々な課題に取り組んで参りました。
そこにありましたのは、先生との信頼関係。
いかなる局面においても、日本という国および国益を
最優先する信念、先生と私を繋（つな）ぐ一番の絆で
あることを確信しております。
少々かっこよく言い過ぎたのかもしれません。
普段はお酒を酌み交わし、ゴルフ場で冗談を言いながら回る。
むしろ、そんないつもの光景の、そこにあった安倍先生の
笑顔が目を閉じれば浮かんでまいります。
総理としてのご功績は、今さら私が申し上げるまでもなく、
多くの方々の知るところであります。
内政はもちろんのこと、外交に於いて、間違いなく戦後の
日本が生んだ最も優れた政治家ではなかったか、
そう確信するものであります。
戦後最長となられた在任期間を通じ、積極的な安倍外交は、
貴方の持ち前のセンスと、守るべき一線は譲らない類い希なる胆力に依って、各国の首脳からも一目置かれ、日本の
プレゼンス、存在を飛躍的に高めたと確信しております。
貴方が総理を退任された後も、ことあるごとに
「アベは何と言っている？」と各国首脳が洩らしたことに、
私は日本人として誇らしい気持ちを持ったものであります。
世界が今、大きな変革の下に、各国が歩むべき王道を
迷い、見失い、進むべき羅針盤を必要とする今この時に、
貴方を失ってしまったことは、日本という国家の大きな損失に他ならず、痛恨の極みであります。
先生はこれから、晋太郎先生の下に旅立たれますが、
今まで成し遂げられたことを胸を張ってご報告を
して頂ければと思います。
そして、岸信介先生も加われるでしょうが、政治談義に花を
咲かせられるのではないかとも思っております。
ただ、先生と苦楽を共にされて、最後まで一番近くで支えてこられた昭恵夫人、またご親族の皆様も、どうかいつまでも温かく見守って頂ければと思います。
そのことをまた、家族ぐるみのお付き合いをさせて頂きました友人のひとりとして、心からお願いを申し上げる次第であります。
まだまだ安倍先生に申し上げたいことがたくさんあるのですが、私もその内そちらに参りますので、その時はこれまで以上に冗談を言いながら、楽しく語り合えるのを楽しみにしております。
正直申し上げて、私の弔辞を安倍先生に話していただくつもりでした。
無念です。
令和四年七月十二日 元内閣総理大臣 友人代表 麻生太郎
（2022.7.14 DHC虎ノ門ニュースからの文字起こし）