-『1Q84』の登場人物は、青豆と天吾はもちろん、タマルにしても牛河にしても、柳屋敷の老婦人にしても、幼年時代に抑圧的な生きかたを強制されたり、なんらかのかたちで傷つけられたりした人たちだと思います。そのままいけばどうしようもなく損なわれてしまったかもしれない人たちが、自分の力でそこを抜け出し、孤独のなかで自分を作ってきた。システムというものに対抗する個人は、孤独のなかで自分をつくっていかなければならないということが、かなりはっきりと描かれているように思いました。

村上
自分をつくることは、それぞれの個人によって成功する場合もあれば、しない場合もあります。青豆と天吾に関しては愛というものが大事なポイントになっているけれど、タマルや牛河にとっては愛はそれほど効力を持っていないようです。タマルはタフでクールで、とても魅力的な人物ではあるけれども、彼は言うなれば、今いる場所に完結しています。他者との精神の深い連帯を強く求める人物ではない。なぜならたとえば愛を求めることは、青豆を見てもわかるように、自分を危うい立場に追い込むことでもあるからです。牛河にしても結局はああいう結末に向かうしかない。