両方の肺が必死に新鮮な空気を求めていた。しかしそんなものはどこにもない。ビニールが顔全体にぴたりと張りついて、文字どおり死の仮面となった。ほどなく身体中の筋肉が激しく痙攣を始めた。牛河は手を伸ばしてその袋をむしり取ろうとしたが、手はもちろん動かなかった。背中でしっかりと縛られているのだ。頭の中で脳が風船のように膨張し、そのままはちきれそうになった。牛河は叫ぼうと思った。新鮮な空気がどうしても必要なのだ。何があっても。しかしもちろん声は出てこなかった。舌が口いっぱいに広がった。意識が頭からこぼれ落ちていった。
やがて首の輪ゴムが外され、ビニール袋が頭からむしり取られた。牛河は目の前にある空気を必死に肺の中に送り込んだ。…
「海の底はどうだった?」と男は牛河の呼吸が落ち着くのを待って尋ねた。
「牛河さん、何度も繰り返すことになるが、俺は正しい答えを求めている。だからもう一度だけ質問する。…」
「教団はこのことを知らない」牛河はようやくそれだけを口にした。
「そう、そいつが正しい答えだ。教団は青豆と川奈天吾のあいだに繋がりがあることをまだ掴んでいない。あんたはまだその事実を連中に伝えていない。そういうことだね?」
牛河は肯いた。
「最初から正直に答えていれば、海の底なんか見ないで済んだんだ。苦しかっただろう?」
牛河は肯いた。…
男は続けた。「だから、ここはお互い腹を割って、包み隠すところなく、正直に話をしようじゃないか。いいな、牛河さん?」
牛河は肯いた。
「もし正しくない答えがまた返ってきたら、また海の底を歩いてもらうことになる。今度はさっきよりもう少し長く、もう少しゆっくり歩いてもらう。もっとぎりぎりのところまで。下手をしたらもう戻って来れないかもしれない。そんな目にあいたくないだろう。どうだ、牛河さん?」…
「リーダーの死に関して私に落ち度があた」
「どんな具合に?」
「私が青豆の身辺調査をした。リーダーに会わせる前に厳しいチェックを入れる。まずい点は何も見つけられなかった」
「しかし彼女は殺害する意志をもってリーダーに接近し、実際にとどめを刺した。あんたは与えられた仕事をしくじったし、いずれその責任を取らされることになるだろう。所詮は外部の使い捨ての人間だ。また今となっては内情を知りすぎた男になっている。生き延びるためには、連中に青豆の首を差し出さなくてはならない。そういうことかな?」
牛河は肯いた。